第8話 海

 「意味わからない。なんで海?」

 

 この一言に尽きる。

 今回ばかりは占い結果を信じられない。

 なぜなら今は5月、海に行くには早すぎるし行く予定もないのであるはずがない。


 てかどうなったらこいつらと海に行く用事ができるのか想像もつかない。もしあったら俺の黒歴史を暴露してやる。


 あっ。

 急に頭の中でプチンとする音がする。もしかして今いけないラインを超えたのかも知れない。ひょっとしてこの展開ならではのアレをやってしまった?

 そう思った途端に心臓の鼓動が速くなる。


 (やめてくれ、やめてくれ。踏みとどまってくれ!)

 

 「海、海、海?そうだ!思い出した。今週末のボランティア活動、海でゴミ拾いだった!」


 恐れていたことが本当にきてしまった。予想通り、フラグを立ててしまうなんて。

 回収も一瞬だし。

 

 しかもボランティアって、こんな形で海に行くことになるのか……

 そこで俺の唇は誰かに奪われるのか……

 

 「私は……行かない……」

 

 静まっていた空気の中突然、誰かが口を開いた。

 声の正体は普段は小さく聞きずらい声の人。しかし今日の鈴美の声はハッキリと聞こえた。

 

 「私はまだこの人を個人的に認めてませんし、こんな奴とキスなんて絶対にしたくない……!」

 

 鈴穂がここまで強気な態度ができるとは思わず、驚きもあるがそれ以上に悲しい。

 俺ただの陰キャなのに。

 

 「じゃあ今回のボランティア活動はあなた一人でお願いね。大丈夫、君も一人前の部員だから任せられる」

 

 すごいイイ感じ任せられたが、酷い言葉。

 キスしたくないのも分かるはわかるが、しれっと鈴穂側に入って押し付けてくる部長。

 

 「夢奈は?」

 

 最後の希望に話を振ってみたが反応には期待していない。

 一応念のための確認だ。うん。期待していない。期待していない。

 何かドキドキしているのは気のせい!

 

 「私は…………………………行きません!」

 

 「ですよね~」

 

 知ってた。知ってはいたが、いざ言われると心に大きい釘を刺された気がする。

 せっかくこの数日頑張って認めてもらえるように頑張ったのに、次は一人ぼっちでボランティア活動か。

 これは本当に認めてもらえているのか。

 泣く泣くボランティア活動を受け入れ、サインする。

 

 (あーー寂しい)



 ☆★☆★

 

 

 土曜の朝。

 まだ日が昇りきっておらず、薄暗さが残っている。

 

 「じゃあ今からゴミ拾いを始めます」

 

 今回のボランティア活動の内容はゴミ拾い。地域で定期的に開催されているものに参加している。参加者の中に若者は多分、俺一人でおじいちゃんおばあちゃんが多くを占めている。

 

 係員の人から手袋とゴミ袋、トングを貰い開始する。

 ここの海は夏になると海開きがなされ、ここら辺の地域じゃ有名な海。

 また夏以外にも、漁師やランニングで使われたり、イベントを開催されることも多く、年間を通して幅広く使われている。

 だからゴミは多く大変。

 

 (いやーしんどい)

 

 ゴミ拾いは想像よりも辛く、立ったりしゃがんだりを永遠と繰り返す。そのため疲労も貯まりやすい。

 まだ17歳になり立てなのに腰も痛い。

 ボランティア活動の大変さを身をもってつくづくと痛感する。


 (若者がこんなんなのにおじいちゃんおばあちゃんは大丈夫なのか?)

 

 そう思い周りの人達を見渡すと皆、俺と違って生き生きしている。

 おまけに会話も楽しみながら笑顔でやっている。


 (オーマイガー!おじいちゃん達化け物)

 

 この後も文句を言いながら、せっせと拾い上げる。

 次に気が付いた時には日は昇りきっており、俺ら以外の一般人達の姿も見えてきた。

 俺の体はっとくに限界を迎え、足が震えている。

 

 「一般の方も増えてきましたし、今回はこれで終わります。お疲れ様です。」

 

 今回の俺の成績はゴミ袋、5個分。

 最初はゴミだらけの砂浜が今では太陽の光で輝いている。

 これを見ると自然と笑みがこぼれ、大きなやりがいを感じた。


 しかし、懸念していたキスしそうな場面もなく、ボランティア活動は終わり、彼女達を恨む。

 

 (せっかく来たし、もう少し海見ていこ)

 

 潮が満ちたり引いたりする音はとても癒される。

 ここなら何時間もおれる気がし、動きたくない。てかもう動けない。

 

 海はすごい。

 俺の人生で友達がいなかった関係もあってか、海なんてほぼ来たことがなかった。しかし、実際に来てみると泳ぐや遊ぶ以外にもこんな楽しみ方があったなんて知らず感銘を受けている。


 本当にただボーっと眺めていた時、誰かが声を掛けに来た。

 

 「ようやくチャンスが来たね」


 そこにはフルーツのオレンジような色をしたボブヘアーに、つぶらな瞳をしていて体も筋肉があり、シュッとしている女性がいた。また俺達の制服を着ていたため、同じ学校だとは分かってはいるが、見たことがない。

 しかしこの声は聞いたことがあった。

 

 そう。今まで俺達のことに手助け?してくれた人だ。

 まだ2回しか聞いたことないのに、優しい声のおかげか耳によく残っているのでその人で確定だろう。

 

 「何のようですか……?」


 人見知りのせいで、震えた声になる。

 それもそうだ。急に話しかけられたら絶対にこうなる。異論は認めない。


 「あなたと話したくて。二人きりで」


 えぇ!もしかして愛の告白。

 これは早とちりではない。だってこの言葉を、髪をかき上げているのだぞ!

 ビビッている暇はない、一刻も早く絶好の機会を手に入れなければ。

 

 「こんな俺でありがとうございます。ぜひOKで!」


 「本当!ありがとう。まだ何も言ってないのに分かるなんて神様だよ!」

 

 気分がとても良い。

 俺の返事一つでここまで喜んでくれるなんて。

 やはり彼女は占いによるものではなく、運命の人パターンで作る方が良い。

 

 (ようやく今までの苦労が報われる)

 

 そう考えると足の痛みがだんだんと癒えた気になって、元気よく立てる。

 そして定番である、しゃがんで片足を膝につけ、片手を向ける告白ポーズをする。

 

 遊びでもこのポーズはしたことがなかったが、案外といけるもの。

 これ以上なく綺麗にできており、笑顔で目線を合わせる。

 

 「じゃあ、あの子達の男嫌いを直してね!」

 

 この言葉を聞いた瞬間、膝から崩れ落ちた。

 おまけに足の痛みもすぐさま復活を遂げ、泣き叫びたい。


 (男嫌いなんのことだ。あの子達って誰?)


 「あのー大変失礼ですが、お名前は?」

 

 「星山実。高校一年生です!」


 名前を聞いてすべてがつながった。

 同じ学校の美女なのに見たことないなと思ったら、一年か。

 

 俺達の学校は学年ごとに校舎も違う。

 そのせいか自分の学年の情報しか入ってこないし、そもそも一年生は入学してまだ一ヶ月ほどなので知る機会がゼロ。プラスに俺はまともに話せる友達は一人、またつい先日まで部活にも所属していなかったため後輩と関わる機会もゼロ。だから情報なんてほぼ分からないのだ。


 「じゃあ用件が済んだので、私はこれで帰ります」


 「えっ!それだけ!ちょっと待ってください!一つ質問です。星山ってことは鈴美の妹ですか?」

 

 「分かりましたか。そうです。でもこのことは姉さんには黙っていてください。約束ですよ」


 他にも聞きたいことがいっぱいあったのだが、風来坊のように早く立ち去る。

 追いかけようとしたが、足がいうことを聞かず動けなかった。


 謎多き妹。

 果たして俺になんでそんなことを頼むのか?

 男嫌いを直せって、告白じゃないのか。

 

 最後に約束通り、黒歴史を吐きます。


 私は中学生の頃、間違えてやらしい本を学校に持って来てしまい、授業中カバンから取り出す時に、落ちてバレてしまい怒られた事があります。その本はお気に入りで没収されたときには、すぐにトイレに駆け込み号泣しました。


 おもんなかったらすいません。以上です。

 

 


 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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