第5話 情けない

放課後のチャイムが鳴り、俺は急いで廊下を出る。

向かった先はとある教室の前。

 

今日は会いたい人がここにいるから来た。

しかし、緊張していて教室の前で足が止まる。


なぜ緊張しているかって?それは俺が人生で始めて妹以外の女性に話しかけるからだ。しかもとんでもない美女に。

深呼吸を何回も繰り返し、心の準備を整えると、教室の中をそっと覗き込む。

今回俺の標的はというと__人並み輝きを放っており、物理的にも頭一つとびぬけているのですぐに俺の目についた。


夜月。

この人物は何度会って喋っても慣れない。

とても良い人だとは分かっているが、彼女が放っている陽のオーラとか明るい性格とかとにかく俺と間反対だと感じ、距離を置いてしまう。

 

 「昨日いっぱい自分から喋りかけられるように練習したんだけどな……」

 

 練習では緊張感なくスラスラと話せていたのにいざ本番になると、緊張感で押しつぶされそう。


 スポーツをしている人で練習ではできたのに本番でできなくなる人の心理ってこのことなんだ。

 

 躊躇すること数十分。

 ようやく覚悟を決めて、駆け出そうとすると、キラキラのオーラがすぐ目の前にあった。

 

 「おっ!光圀君じゃん!どうしたの?」

 

 「えっ、いや、えっと……」

 

 突然の登場で混乱。


 (やばいやばい何言えばいいんだっけ、早く思い出さないと)

 

 焦りも出てきて、頭の中は真っ白。

 とにかくこれ以上待たせるのは悪いと考え、何か言ってみようと本能に任せた。

 

 「あの!ナイスボディーですね!」

 

 本当に何言っているんだろう。確かに始めて彼女を見た時から、男を誘惑するのに完璧な体じゃんって思ったけど、まさか直接言ってしまうなんて……


 公の前で変なこと言って申し訳ない気持ちと、恥ずかしさでいっぱいになる。


 そのため真っ赤に膨れ上がっていると彼女は優しい目をして話し出す。

 

 「光圀君のエッチ!やっぱり男なんだね」


 この言葉にはぐーのねもでない。

 

 「で、本当はどうしたの?」

 

 しかしそれだけで終わらないのが夜月。察しが良く、俺が他の要件があることを分かっており、聞き出そうとしてくれる。

 

 「いや、実は、その、えっと......」

 

 それなのに俺は未だモジモジしていて、情けない。

 ここまでしてくれたのに関わらず、俺はまだまともに話せない。

 

 「ほ、ほ、本当にすいません。出直してきます......」

 

 これ以上俺に時間を取らせてはいけないと思い、今日の所は退散しようとする。


 しかし、こんな情けない俺に夜月は更に助け舟をだしてくれる。

 

 「あ、ごめんね。こんな人前じゃ話しにくいよね。屋上行こっか。」

 

 今度はそう言って俺の手を取り、走り出す。

 走ってる夜月の背中は俺よりもとても大きく見え、ついつい比べてしまう。

 

 (俺は情けないな。)



 

 「ここなら大丈夫?」

 

 人気もなくとても静かで、隠な俺からしたら最高の場所に着いた。ここでは俺も自然と安心した気持ちになる。

  

 「ありがとう。俺の為にここまでしてくれて感謝してもしきれないよ」

 

 「そんな改まらなくて良いよ。困っているのを助けるのは当たり前だよ!」

 

 どこまで女神なんだろう。

 今まで距離を置いてしまったことを後悔しかない。

 

 「じゃあお願いがある」

 

 「なーに?」

 

 夜月は誘惑するように訴えてきたが、心の落ち着き、気にせず話すことができた。

 そして俺の目的は達成。


 さぁ明日から勝負開始だ!



 ☆★☆★

 


 「夢奈!一緒にご飯食べようよ……」

 

 突然だが夢奈とは緊張せずに、話せる。

 あきらかに夜月の時の態度と違っており、生き生きしているのを感じる程だ。

 きっとどこか似ているからだろうか。


 そんなことはさておき、教室の中でポツンといた夢奈は突然のことで驚きを隠せず、急いで俺をどこかに引き込む。

 

 「ちょっと!何考えているのです?」

 

 「いや、どうせ一人で食べるなら、ボッチ同士仲良く食べようと思いまして」

 

 率直な思いを告げる。

 これは本当だぞ。何もいやらしいことは考えてない。

 すると照れているのだろうか、夢奈のほっぺたが赤くなっていた。

 

 「私はボッチじゃありません。だから帰ってください」

 

 俺が見た時、教室の端っこの席でご飯を広げようとしていたのでこれは噓だろう。

 しかも前に友達がほぼいないとも言っていたので、俺を騙すことはできない。

 なーに見栄を張る必要はないぞ。

 

 「まぁいいだろう。あまりのんびりしていたら食べる時間がなくなるよ」

 

 残り十五分。

 正論を告げると、納得してくれたのだろうか。

 夢奈は少し歩いて距離を取り、手でこいこいとジェスチャーをした。

 

 素直に着いていくと、そこは誰も使っていないはずの教室だった。

 

 「よくこんな所知っているな」

 

 「ボッチは静かな空間が落ち着く。これはあなたなら分かるでしょう」

 

 自分でボッチと認めた。

 まぁしかし、夢奈が言う通りこの空間はとても落ち着く。

 空気がおいしい。

 

 「一緒に食べるだけですからね。くれぐれも喋りかけないでください」

 

 「分かったよ」

 

 こうして俺達は各自の机でお弁当を広げ、黙って食べだす。 

 箸は進むが、さっきまでのおいしい空気が噓のように重い空気で気持ちは停滞。

 学校の昼ご飯ってもっと明るくするのだと思うのに……


 「やっぱりもう少し仲良く食べません」

 

 流石に気まずいので少しでもいいので仲良くしようと提案した。

 

 「私は仲良くする気はありません」

 

 だが一蹴される。

 ここまで意思が強い子初めて見たので、周り流されないところの感心と、友達が少ない理由が分かった気がした。

 

 結局、その日の昼は怒らせないためにも静かに時を過ごした。

 

 

 ☆★☆★

 

 次の日の昼休み。

 めげずに夢奈のところに向かうと、昨日とは雰囲気が違っていた。

 

 昨日までは教室の端っこでポツンといたのに対し、今日は一変。そこには人盛りができており、夢奈の姿が全く見えない。

 

 その様子を見て今日はおいたましようとした時、怒鳴り声が聞こえた。

 

 「あなたのせいでケータイバレたでしょ!全くいらないことしないで!」


 「俺も、お前のせいで何回怒られたと思っているんだ!」

 

 これを聞いて、俺は足を止める。

 てっきり人気者になったのかと思っていたので、諦めて帰ろうとしたのだがそうではないらしい。

 

 一人の女性を囲み、文句を言ってことからこれはれっきとした、いじめだと見受けられる。

 

 いつもならここで夜月止めに入ると思ったのだが、今日はその姿はない。

 鈴美さんも教室にはおらず、占い部は俺だけ。

 また他の生徒も助けようとはせず、一見してから知らんぷりをしていた。

 

 きっといじめている奴らは、夜月達がいないことを狙って、今まで溜めていたことを吐き出しているのだろう。

 

 止めに入りたいが、それ以上に勇気がでない。

 今俺の頭には、助けた思いより怖いが勝っている。

 

 情けない。

 目の前の部員がいじめられているのにも関わらず、止めに入ったら彼女達に何させられるかのことを心配しているなんて……

 下を向いて唇を嚙み締める。

 

 (俺はどうすれば………………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る