第15話 未解決

魂を修復された美佐子は膝まづいて平伏して礼を述べる。拓也も剛も同じように平伏した。彼等にはもう戦う意志などはなく、ただ感謝の気持ちでいっぱいであった。


『ありがとうこざいます。ありがとうこざいます。』


涙を流しながら平伏している。


「よい。約束じゃ。褒美を遣わす。受け取るがよい。そしてもう手放すな。」


弁財天様の後ろから小学生の男子がひょっこりと顔を出した。


『お母さん!』


『拓美!拓美!』


親子が抱き合って涙を流す姿に佐野と小山も号泣し、良かった!良かった!と呟く。ただ九頭龍だけは腕組みをしながらそっぽを向く。


『皆さん、ご迷惑をお掛けして本当に申し訳ありませんでした。』


先程、暴れていた悪霊とは思えぬ、綺麗な女性が誠心誠意謝罪する。髪は少し明るい茶色、花柄ワンピース、整った顔、火傷の後などない綺麗な女性だ。拓也も背が高く、端正な顔立ちのは青年だ。剛は体育会系の爽やかな青年である。


親子3人で手を繋ぐ。剛は良かったと拓美の頭を撫でている。


「弁財天様!誠に良き采配にございます!私、九頭龍!感服致しました!」


九頭龍は感激のあまり弁財天様の両手を握ってしまう。みるみる弁財天様の顔が赤くなっていく。


「ひゃっ♡な、な、な、何をしておる!?て、手を離さぬか!こ、これ。」


「も、申し訳ありません!私としたことが御無礼を!お、お許しください!」九頭龍は距離を取って平伏した。


「い、いきなりでびっくりじゃ……!き、挙動不審な、う、動きを慎め。」


小山はクスッと笑い


「弁財天様、可愛い。まるで少女のよう……。」


弁財天様は小山のほうを向き、横髪をかきあげながら小山を指さす。


「な、何か申したか?小山郁子?じ、地獄に行きたいと?」


「い、いえ、滅相もございません!」


しまった!とばかりに自身の口を両手で塞いだ。


佐山は目にハンカチを当てながら感激し、余韻に浸っている。


「すまぬ。そなたの妹は見つけられなんだ。」


弁財天は唐突に言葉を発する。


『いえ、これだけの事をして頂いただけで満足です。本当にありがとうこざいます。弁財天様。』


「わらわのを持ってしてあの世で見つけられないとなると……。そなたの妹、美咲は恐らく……。」


『生きているなら良かったです。私達の分まで幸せになって欲しいし。』美佐子は驚きはしたが満足な笑みを浮かべた。


剛は寂しそうだったが『彼女が今、生きて幸せならそれでよい。』と納得したようだった。


「確証はない。異世界に飛ばされた可能性もある。この世にはまだ不可思議なこともあるのだ。神すら知らぬこともな。あてはある。。わかり次第、そなたに伝える。」


はどのような者達かは想像出来ないが恐らくは人間ではないだろう。


『何から何までありがとうこざいます!そしてヤマモトデンキの皆さんも!本当に申し訳ありません……。』


いいんですよ!と佐野と小山は両手を振る。


『九頭龍。助けようとしてくれてありがとう。ごめんね。』


美佐子は九頭龍に向き直ってお辞儀をした。

九頭龍はフンと言ってそっぽを向いている。


「この男は照れておるだけじゃ。気にするでない。素直じゃないのう……そなたは。」


九頭龍は少しだけ振り返り、片方の目を閉じたまま、美佐子に声をかけた。


「よかったじゃねぇか。見つかってよ。」


ぶっきらぼうにそう答えた。美佐子は恥ずかしそうに笑った。綺麗な笑顔であった。


『バイバイ。九頭龍!』


美佐子達の身体が浮き、光の粒子となって消えていく。九頭龍は振り返ることは無かったが


「その手をもう離すなよ。」と呟いた。


光が粒子となる直前、美佐子は微笑む。粒子は天に登って消えて行った。


「やれやれ解決なのか……未解決なのか……わからぬが一段落と言ったところかの。」


天が言う。弁財天様の姿はもうない。


「本当にありがとうこざいました!」


ヤマモトデンキの2人からお礼を言われ謝礼を受け取りヤマモトデンキを後にする。今日はもう帰って1日休み、明後日から店の後始末をしてから、明明後日で特売で営業するらしい。もちろんドイソンの掃除機である。


九頭龍と天はタクシーに乗り込む。乗るや否や、九頭龍が胡麻すりをしてきた。


「で?それでぇ~~~やらしい話をしましょうか?天ちゃん。」


「な、何じゃ。気持ちの悪い……。」


「またまた~~~とぼけちゃって~~~♡謝礼だよ。しゃ・れ・い♡」


「ああ、なんじゃそれか。」


「そうだよ~~~天ちゃん!も~~~人が悪いんだから!俺、頑張ったじゃん?その~~~おいくら万円かしら?天下のヤマモトデンキ!期待して~~~ようござんしょ?」


天はふふん!と謝礼の入った封筒を取り出す。


「慌てるな。慌てる馬鹿は貰いが少ない。慌てなくとも、そなたの取り分はある。」


「んもぉ!天ちゃん大好きよ!もったいぶってさぁ!早く開けようぜ。」


手を組んで体をクネクネさせる九頭龍。


「いや、金額はな。あまり大きな声では言えんが高額ぞ?」


「分かってますって!」


「やれやれ……がめついのう……聞いて腰を抜かすでないぞ?」


「ワーオ!既に準備は出来ておりますであります!天隊長殿!」


九頭龍が調子よく敬礼のポーズをとる。


「やれやれ聞いて驚くなかれ。」


「うんうん。」


「なんと!」


「うん!」












「1万円じゃ。」














「は?」









九頭龍が固まって動く様子がない。



「だから1万円と申したであろう。あ?さては嬉しさで声も出ぬか?そうじゃろう。そうじゃろう。わらわは知っておるぞ?そなたのような者のことを世間ではと呼ぶらしいな。どうじゃ?もちろん、1万円もの大金はそなたには多すぎる。」


天はがま口財布から3000円をピロッと取り出し九頭龍に渡した。


「人生で初めて得た金銭であろう。大切に使うが良い。そうじゃ!よい使い道を伝授しよう。わらわは7000円で京和菓子をたらふく食う。そしてそなたの3000円で飲みに連れて行け!初仕事を成功させた祝いに乾杯と行こうぞ!」



「……。」


九頭龍の肩がわなわな震える。



「ん?どうした?腹でも痛いのか?」


「ふざけんな!3000円だと!?あれだけの仕事で3000円ぽっちだと!割に合わねぇ!戻れ!ヤマモトデンキに戻れぇ!」


九頭龍は天のほっぺたを引き伸ばす。


「いだだだだ!なんじゃ!何が気に食わぬ!?わらわは神ぞ?!神のほっぺたを引っ張るでない!」


「なーにが神だ!疫病神!貧乏神!」


「なんじゃとー!!大した働きもせず、3000円の大金を貰いおって!恩を仇で返すとは!」


天も負けずと九頭龍の頬をつねる。


「いだだだだだだ!3000円で飲みに行けるか!言うにことかいて自分は7000円で京菓子を頬張るだと?ふざけんじゃねぇ!」


「わらわはよいのじゃ!自分自身に対するご褒美じゃ!」


「私利私欲に走りやがって!だから腹が出るのだ!」


九頭龍は天の腹をつまみ上げる。


「きゃあ!何をするのじゃ!すけべ男!明後日から運動すれば問題ない!」


黙っていたタクシーの運転手である源さんが

深いため息を着いて車を停める。


「お客さ~~~ん。いい加減にして下さいよぉ?ここで降りるかい?」


車を停めて指を差したほうに目をやるとラブホテルだった。流石に天も察したらしく、頬を赤らめ黙った。九頭龍も黙る。


「喧嘩するほど仲いいって言っても、タクシーで暴れたらあかんで?あれ?降りへんの?」


『『降りない!!』』


息ピッタリにそう言った。



「コンビニで……酒でも買うか?」

九頭龍が照れくさそうに天に話しかけた。

「こんびに!わらわは日本酒がよい!そなたは?」天が嬉しそうに笑った。

「俺はビール!」

「それはよいな!源さん!こんびにに寄ってくれ!」

「あいよ。」


源さんはため息をもう一度吐き、タバコに火をつける。天も九頭龍もタバコを口にくわえ、九頭龍がライターを出して天のタバコに火を付けてやり、自分も火をつけて紫煙を吐き出す。


こうして賑やかな京都の街から神社へと車は闇を走り出す。次は如何なる怪異が待っているのだろう……。今日はもう知らなくてよい。

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