第13話 神の条件

皆が勝利に喜び、天を囲む。しかし、天は何かの気配を察知したのか手で制し


「出てまいれ。」


とだけ言った。黒いどす黒い影からやはりと言った感じでが現れた。九頭龍にやられてボロボロであったが、まだ諦めてはいない。


『もう少しで私が菩薩になれたのに!あんた達のせい!あんた達が邪魔するから!』


天は腕組みをしながら冷たく美佐子を睨む。

「聞き捨てならぬな。よかろう。神とは何かを教えよう。」


天は懐から日本酒の小瓶を取り出した。結界を張る時に使用すると皆は思っていたようだが、最後まで使用されることは無かった。瓶の蓋を開け、ぐびぐびと日本酒をラッパ飲みする。


「ぷはぁ!いや良い酒じゃ!悪くない。」


『てめぇ!戦いはまだ終わっちゃいねぇ!酒なんか飲みやがって!お前の切り札が酔拳とかいうんじゃあねぇだろうな!?』


「くくくっ。そのようなものではない。」


九頭龍の顔が見る見る青くなっていく。


「美佐子!謝罪しろ!今なら間に合うかもしれん!いますぐ謝罪するんだ!」


九頭龍の焦った様子にも困惑する。


『あぁ?九頭龍、なんだってんだ?脅しか?』


「脅しじゃない!殺されるぞ!お前にはわからないのか?!この状況が!」


店の外から聞こえてくるのは雷雲、ゴロゴロと音が鳴り響く。ピシャっと音がした瞬間、当たりは真っ白に包まれる。時が止まったように辺りは静かになった。


「皆の者。控えよ。弁財天様が御成だ。」


九頭龍が平伏し頭を深く下げる。佐野と小山も雰囲気を察知したのか、お互いを見た後に平伏した。佐野と小山は九頭龍を見たが、九頭龍は平伏したまま小刻みに震えている。天のほうを見たが、女性が立っているということはわかったがシルエットがまるで違う。しかし後光が射しているのか顔が良く見えない。


光の中から現れた女性は天にそっくりではあるが雰囲気はまるで違う。露出が多い所謂、朝服を着て天女と呼ぶのが近い。髪は飛鳥奈良時代のと呼ばれる髪型で横顔はびんそぎされている。髪には金の装飾がされた髪飾りをつけており、切れ長の目、整った鼻、妖艶な唇、絶世の美女と呼ばれにふさわしい。


「今一度、問うてみよう。何になると?」


テレビで芸能人を見ることがあるだろう。親しみを込め呼び捨てにすることもあるだろう。

しかし実際に本人を目の前すると圧倒的なオーラを纏っていていつものように呼び捨てなど出来ない。


しかし神ともなればその比ではない。


人間、動物は空気を読む。友達同士なら友達が不機嫌であるならば雰囲気で察知する。

また、犬や猫でも飼い主が落ち込んでいたならば頬を舐めたり手を舐めたりもするだろう。


しかし神ともなればその比ではない。


不快であると神が思えば人間は恐れる。

本能で察知する。

小山も平伏したまま失禁している。神の前で失禁などすれば神罰が下ってもおかしくはない。ただ九頭龍は小山を責める気など微塵もない。仕方の無いことなのだ。

佐山も平伏したまま歯をガチガチと鳴らしている。動物としての本能であろう。


『な、何って……ぼ、菩薩よ。誰も私達を救わないから……。』

美佐子の手は震えているが、精一杯、答えを絞り出した。


「黙れ!美佐子!口を慎め!弁財天様の御前である!控えよ!弁財天様……!このような者の言う事にお耳を貸す必要などございません!」

九頭龍が平伏したまま答える。


「よい。かまわぬ。」


弁財天様が手で制止する。


「そなたが?菩薩とな?ふっ……ふふ。あーはっはっは!」


高笑いが響く。


『な、何がおかしいの!?』


向天吐唾こうてんとだ。天に唾を吐くとはまさにそなたのことを言う。」


『天に唾なんて吐いてない!!自分で考えたの!』


「痴れ者が。」


美佐子の周りの空間が歪み重力が押し潰すように美佐子にのしかかる。地面にうつ伏せにへばりついた美佐子のまわりにクレーターが出来上がった。


『うぐぅ!!』


「少し教えて遣わす。神とは……たとえ人に忘れさられても、誰にも祈られなくなっても……誰にも奉られなくなっても……人々の幸せを願い続けなくてはならぬ。一度なると決めたからにはな。逃げることなど許されぬ。そなたなどには務まらぬ。」


『ぐぅぅぅ!』必死に重力に抗う美佐子だが身動きがとれない。


「魂の真理スピリチュアルについてはなそう。人間は魂の修行をする為に現世に生まれおちる。様々な経験を積み、辛きこと、嬉しいことを魂に刻んで天へと帰っていく。よく年頃のおなごが死にたい、死んで楽になりたいと申しておるが、死は所詮、。それはそなたも理解しておろう?」


『ええ!死にたいなんていう女は生きる有難みを知らない!私達は生きたかったのに!』


「そう。人は徳を積み、魂の修行を終えるまで天寿を全うせねばならぬ。自害などもってのほかじゃ。そして何者にも人の魂の修行を妨げることも許されぬ。つまり人の命を奪うと言う行為じゃ。そなたは自分の目的の為に人を殺めようとした。菩薩であるならそのようなことはせぬ。』


『うるさい!うるさい!うるさい!』


「魂の形は人の精神性に左右される。なんと醜い。火傷ではない。そなたの魂は限りなく魔物に近い。道を誤った者が辿り着く姿ぞ。これ以上は捨ておけぬ。」


『私を殺すの?殺せ!殺せ!』


「いや。そなたに機会を与える。そこからわらわに触れてみせよ。菩薩というなら容易いであろう。距離は4m82cm。近かろう?わらわに触れたら、そなたの望みを叶えてつかわす。」


『そんな簡単な条件でいいの!?二言はないな?吠え面かかせてやる!』


「神の名において二言はない。来れれば……の話じゃが。」







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