第12話 決着
トイレに逃げ込んだ美佐子を追って九頭龍は歩く。トイレの廊下の真ん中で止まり、ポケットからタバコを取り出し火をつける。
「フーッ。見え見えなんだよな。」
床から伸びた腕が九頭龍を突いてくる。1本を右横に躱し、天井から伸びた手を左横に躱す。正面から来た手を2回バク転して距離を置いた。ギリギリ届かない距離を見切っている。
後ろから伸びてきた手を見ることなく首を反らして躱す。伸びきった腕に咥えていたタバコを押し付けた。吸殻を携帯灰皿にしまい込む。
『熱っ!てんめぇ!九頭龍!どこまでも!人をコケにしやがって!千回!殺す!万回!殺す!』
九頭龍は言葉を無視して男子トイレに入る。男子トイレの鏡には美佐子が鬼の形相をして映っている。九頭龍はそれには見向きもせず。ポケットに両手を突っ込んだまま、トイレの中央に立つ。九頭龍から見て右側が小の便器、左側が洋式便器である。
「遠慮はいらない。本気でやれ。」
九頭龍は右手をポケットから出して手のひらをクイっと挑発する。視界の悪い薄暗いトイレ、九頭龍の真正面に突如、美佐子が出現する。
『
「菩薩気取りか。甚だ図々しい。」
九頭龍も同じ構えをとり、腕による激しい突きの互角の応酬。九頭龍はもう一度、構えなおし
「菩薩の御心には程遠い。」と吐き捨てた。
『違う!私こそが千手観音菩薩よ!私が皆を救ってみせる!子供を見つけて!焼け死んだ皆を極楽浄土へ導くのよ!九頭龍!』
「人を救うのに人を踏みにじる菩薩などいらん。」
『大なり小なり犠牲は出るの!いつも何か得るためには犠牲は必要なの!子供の為ならいくらでも!必要な犠牲を払いまくってやるわ!』
「
九頭龍の突きが美佐子の突きを上回り42発の打撃が美佐子を捉えた。『がはっ!』っと呻き白目を剥く。
九頭龍は美佐子の膝裏を蹴り、美佐子は膝を床に着いた状態になる。
洋式トイレと向かい合わせになった美佐子の後頭部に前蹴りをした。
美佐子は便器に頭を突っ込んだ状態で動かなくなった。九頭龍はトイレのレバーを大のほうを回し水を流した。
「頭、冷やして反省しろ。お前のしたことは水に流してやるから。」
九頭龍は手を洗ってトイレを後にした。
一方で天は影に取り囲まれていた。拓也は天の底知れない力に怯え、力を削ぎ落とす為に影をぶつけていた。天はその影達を拳、蹴り、合気道の投げで、応戦したが沢山の影に羽交い締めにされた。
『ようし。ここまで弱らせたら大丈夫だろう。』
トドメを刺すと言わんばかりに黒焦げの拓也が近づいてくる。大きく拳を振り上げる。
「させませんよ。」
掃除機を構えた小山、佐野が天のほうに走ってきて影達を掃除機で吸い込む。
「そなたら……ぷっ。あははは!掃除機にそのような使い方があったとは!わらわも知らなかった!」天は可笑しそうに笑った。
『家電買うなら!』
『ヤマモトデンキ!』
小山、佐野は掃除機を構える。
『なんだ!てめぇら!ただの店員だろうが!お前らも霊能者だったのか?!』
「違いますよ。お客様に真心をお届けするヤマモトデンキの小山郁子でございます。」
掃除機を持ったまま、小山は綺麗なお辞儀をする。よく教育された丁寧なお辞儀だ。
「勤続年数30年!ヤマモトデンキ一筋!佐野文雄!お客様と社員の安全を守れずして、何が店長か!年季の違いを教えてやる!若造共!かかってこい!」
『なんなんだ!今日は!?不測の事態が起こってる!』
ヤマモトデンキの気迫に気圧されたのか後すざりする。掃除機で次々と影は吸い込まれ消えていった。
「余所見してて良いのか?」
天は腕を組みながら拓也を見据える。
「次、家電買う時はヤマモトデンキにするよ。」
天の背後の柵を九頭龍が飛びこえて拓也を急襲する。すかさず空中で回し蹴りを拓也の顔面に叩きこむ。
拓也は吹き飛ばされたが直ぐに立ち上がった。
『美佐子はどうした!?お前死んだんじゃ無かったのか!?』
「今、トイレで頭冷やしてるよ。」
「そなたらの負けじゃ。」
『負け?まだ俺がいるだろ?』
天が構える。それに拓也も応じて構える。奇襲ならいざ知らず、正面からの格闘戦において天には及ばない。攻撃は全て躱され、受け流され、合気道で投げられる。立ち上がるも顔面にハイキックを喰らい、更には追撃の正拳を腹に喰らう。呻きながら膝をつく。
『最高最大の
『
先程繰り出した50発の連撃より更に早い100発の手刀が天を目掛け襲いかかるが、避けるに集中した天には当てられなかった。天は深く呼吸をし息を吐き出す。白いオーラを全身に纏い、そして構える。
「
拳と、蹴りを織り交ぜた8発の乱舞を繰り出し、よろけたところにみぞおちに掌底を浴びせる。衝撃波で店の壁に50cmほどの風穴が空いた。
拓也は微動だにしなかったが衝撃が後からきて風穴が空いた瞬間に遅れて吹き飛ばされた。5mほど吹き飛ばされ、2回ほどバウンドしてうつ伏せに倒れる。もはやピクリとも動く様子はない。
戦いを見守っていた3人から「よっしゃあ!」
と歓喜が上がる。長い戦いに終止符が打たれた。
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