第11話 龍の逆鱗

警備室に幽霊に侵入された佐野、小山は後すざり怯えた様子である。何か……使えるものはないか?必死に探す。自分達は安全……どこかそう思っていた。襲いかかる幽霊をすんでのところで躱す2人は左右にばらける。幽霊に掴まれたら死ぬ、そう思わせる。


一方、3Fフロアのほうは天がヨロヨロと起き上がり叫ぶ。


「九頭龍!聞こえるか!意志の力は次元を超える!そなたの願い、わらわにしかと届いておったぞ!」


『何をわけの分からんことを!』


全身黒こげの男は天を殴りつけた。しかし天は倒れる様子はない。


、遊んでないでさっさと殺して!この女は何するかわからないから!』


『今やってる!黙ってろ!もうこの女は虫の息だ。』


何度も殴りつけるが天はガードすらしないで立ち尽くしている。


天の目がカッと見開いた。


「九頭龍!このような者に負けるそなたではない!!」


2Fフロアのエスカレーター前で倒れた九頭龍の指がピクっと微かに動いた。


お願い!九頭龍の息の根を止めて!こいつのタフさも異常よ!』


火傷だらけの大男が影から現れ、九頭龍の胸倉を左手掴む。


火傷で完全に髪の毛はなく唇もない。歯は剥き出し状態である。服はボロボロ、右手だけが不自然に大きい。左手で九頭龍を上空に投げ、落下した九頭龍を異様なでかさの剛腕を首に叩きつけた。


九頭龍は冷蔵庫売り場の冷蔵庫に叩き付けられ、崩れた冷蔵庫の下敷きになった。


薄れつつある意識の中で九頭龍は想う。


みぶろ……ああ、懐かしい。


ばぁさん……親孝行なに1つ出来なかった……。


弁財天様……御恩をお返しすることが出来ません……でした。俺はどこまで行ってもどこへ行っても中途半端な人間です……。


思い出すは祖母が病院で心臓マッサージを受けているところ。この光景は忘れられない。


カラスの歌が聞こえてきた。小さい頃に祖母が寝かしつける為に歌ってくれた。

正式には7つの子か。何度もせがみ、甘えた。

実はこの歌が好きであり、そして嫌いだった。自分の大切な人がいなくなる、そんな気がした。でも優しい歌だ。


からす なぜなくの


からすは 山に


かわいい7つの


子があるからよ


かわい かわいと


からすはなくの


かわい かわいとなくんだよ


辛いよ。本当に辛い。生きているのが本当に。九頭龍は夢か幻か……手を目に当てて泣いている。



歌を歌っているのは天だった。


『歌うのをやめろー!!!クソが!なんなんだ!お前!悲しい歌を歌うんじゃねぇ!』


『やめろ!やめろ!神も仏も私達を!見捨てた!今更、優しい歌でごまかすな!』


幽霊達も困惑している。の焼けただれた頬から一筋の涙が溢れ落ちる。


『何かわかんないけど、何かおかしい!なんだこの感覚は!』


が悲鳴を上げている。九頭龍に頭を掴まれ持ち上げられている。


『なんだ!こいつ!死にかけのくせに!なんて力だ!外れねぇ!』


メリメリと軋む音がする。は足をバタバタさせてもがく。


九頭龍の手には白い炎かオーラが纏われている。は空中に投げられそして落下してくる。


全身に白いオーラを纏った九頭龍は拳を握り、思い切り殴りつけた。吹き飛ばされたに加速し追いつき、胴回し回転蹴りを喰らわせた。それ以降、は動かなくなった。


「殴られるのは久しぶりだったろ?蹴りはオマケだ。痛みを噛みしめろ。」


『嘘でしょ!?あ、ありえない。あの瀕死の体で?とうに死んでるはずよ!』


は消えたり現れたりを繰り返し、2Fフロアのトイレに逃げ込む。


ゆらりと揺れて九頭龍がゆっくりと歩き出す。


警備室では襲ってきた幽霊達が天の歌声でピタリと動きを止めている。


「なんて優しくて悲しい歌声なの……。」


「まるで鎮魂歌のような……。」


佐野と小山は自然と頬をつたう涙に気づく。


「九頭龍さん、きっと泣いてる。でも……神様が優しい歌を歌ってくださっているわ。でも悲しい。」



「神の歌か……なんとせつなく優しい歌よ。」



そう言うと2人はドイソンの掃除機を握りしめ、スイッチを押す。

佐野はキャスタータイプ、小山はコードレスクリーナーを構えている。


「あまりを舐めないで頂けますでしょうか?お客様。」小山が片目をつぶり銃をかまえるような姿勢をとる。


「お客様の安心してお買い物を楽しんで頂く、それがヤマモトデンキのモットーでございます……。他のお客様のご迷惑になりますので……どうぞお引き取りくださいませ。」


眼鏡の奥の鋭い眼光が光る。


掃除機の凄まじい吸引に幽霊達は為す術なく吸い込まれていく。


『あなたの暮らしに!』


『ヤマモトデンキ!』


2人は同時に決めポーズをとる。


小山はまるでライフルをかまえるようなポーズ、佐野は日本刀を正眼に構えたポーズを取ってみせる。


「やった!やった!やりましたよ!佐山さん!意志の力は次元を超えるんだ!私達は幽霊を倒したんだ!」小山は膝を曲げてジャンプを何回もする。


「ええ!やりましたな!我々、ヤマモトデンキの勝利だ!来週は特売にするぞ!」


佐山は眼鏡を外し、鋭い眼光を覗かせる。


「佐山さん!天様のもとに向かいましょう!私達も力になれます!」


「ええ!ヤマモトデンキ勤続年数30年のこの佐野文雄!微力ながら加勢致す!!うおおおおぉ!」


2人は掃除機を抱えてバックヤードを後にする。




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