第10話 罠

佐野と小山は警備室にスタンバイし、九頭龍と天はインカムを受け取って、耳に装着する。天は小山につけてもらった。


「動作チェックします。聞こえますか?九頭龍さん、天川さん?」


「うむ。良好じゃ。そちらは聞こえておるか?」


「聞こえてますよ!天様!」


「俺もよく聞こえるよ。」


インカムもよく聞こえ、準備万端である。バックヤードを出るとそこには異様な光景があった。警備員室の佐野と小山は「うわっ!」と声が漏れた。


「なんなんですか?!これ!」と小山。


「これは……!」と佐野の叫ぶ。


展示されたパソコンにはたくさんのが表示されており壁側のテレビの売り場にもの顔で埋め尽くされている。下卑た笑いを浮かべながら音声が鳴り響く。


『やっほー皆さん、ご機嫌よう。ねぇ?驚いた?逃げる時間もあったのに、てめぇらクズどもは私と戦う選択をしたようね。ここで殺して下さいって意味でいいのよね?まず女のほうは無惨な死が待っておりますぅ!そしてぇー九頭龍!てめーだよ!てめぇー!聞こえてんだろ?!返事しろや!ゴミクズが!』



「九頭龍さーん!呼んでますよー。」


九頭龍は後ろを振り返り呟いた。


『てめぇーだよ!シカトぶっこいてんじゃねぇ!九頭龍!てめぇーは私の癇にいちいち障る!一番先にブッ殺してやっからよ!ブッ殺した暁にはよ!おめぇらの大好きな異世界転生家畜ライフが待ってからよ!タイトルは死んで幽霊になったらブタのように便器舐めさせらてます!だ!』


「長ぇタイトルだな。流行りかなぁ?お前も異世界転生好きなのか?」


『口の減らねー男だなぁ!直ぐに後悔させてやる!死んでからもお前には残酷で無慈悲な生活が待ってるからな!覚悟しろや!毎日、床と便器を舐める無慈悲な生活送らせてやんよ!』


「ふははは!便器舐めんのはお前かもよ?舐めた口効くやつには罰が必要だっけか?お前にぴったりじゃねぇか。」


の髪の毛が逆だって憎悪が剥き出しになる。


『このクソがぁぁぁぁぁ!』


パソコンからが飛びだし、先程見た沢山の腕が九頭龍を襲う。すかさず天が割り込み鉄扇で全て払った。


「御託はよい。さっさとかかってまいれ。弁天流舞踊 天紅てんべに薙ぎ払え!」


高速回転した鉄扇が目掛けて飛んでいくもは歯で噛んでそれを受け止める。激しい金属音がキィーンとなり歯から火花が散る。


『何度も同じ技が通用するか!』


口は大きく裂け血を流しているが、ダメージなどない口振りである。鉄扇をへし折り、影に攻撃を命じる。


『影ども女を殺せ。』


5体の影は地面を這いながら天に突進し取り囲むも蹴り、掌底、正拳でなぎ倒され、最後の1体はハイキックを喰らって浄化されるように分散した。


何事も無かったように静まり返るパソコンのモニターも、テレビも真っ暗でブラックアウトしているようだ。


「また逃げるのか?」


応答はまるでない。しかしどこからでも、手が襲ってくる事実。これは夢では無い。現実だ。


「佐野。聞こえるか?追跡する。何かわかったら教えてくれるか?」


「わ、分かりました!モニターをチェックしております!」


「天様!気をつけてくださいね!」


しかし、その後はパソコンのモニターにが映っては、向かうと嘲笑うように消えるを繰り返し、天や九頭龍を疲弊させていく。


「テレビの売り場に現れました!」


「今度はパソコン売り場です!」


佐野や小山も必死でモニターを追うが、現れては消え、現れてはまた消えるを繰り返す。佐野も小山も疲弊していった。


痺れが切れたのは九頭龍であった。


「埒があかない。俺は2階を探す。」


天は慌てて九頭龍を止めるが、九頭龍はエスカレーター前まで歩いていた。


「待て!九頭龍!罠だ!わらわとそなたを分断するつもりじゃ!戻れ!」


「あ?」九頭龍が振り返ると目の前にはがいた。


『やっと離れた♡待ってたわよ♡』


「チッ!」九頭龍がに拳を当てようとするがヒラリと躱された。の背中から沢山の腕が生え42連撃の突きを九頭龍に浴びせる。


怨霊千手陀羅尼おんりょうせんじゅだらに!!』


九頭龍は空中を舞い、エスカレーターの階段の角の部分に背中を激しく打ち付け、何回転しても階段を転がり、うつ伏せに倒れた。


「九頭龍!」天は激しく動揺している。


『あーらまだ生きてんの?しぶといブタだこと。』


「貴様!よくも九頭龍を!」


『余所見してていいのかしら?次はあんた。』


天の傍に黒い影が浮き出る。禍々しい影だが、それはではなく、丸焦げの男性である。白い目だけが動く。憎悪に満ち溢れた表情である。


「なっ!今まで気配すらなかった!わらわを欺くとは……。」


怨霊千手陀羅尼おんりょうせんじゅだらに


そういうと50連撃もの手を繰り出し天に浴びせかけた。天は吹き飛ばされパソコンが並べられた棚を次々と倒して地面に転がる。


「天様!大丈夫ですか?!しっかり!応答して下さい!天様!」


『身の程をわきまえなさい。家畜は家畜。ブタはブタ。』


「この!あんたって女は!」小山は激しく怒る。


「よしなさい!小山さん!我々が行っても敵わない!」


『よくわかってんじゃねーか!オッサン!お前は私のお気に入り家畜第1号に認定してあげるわ。媚びろ!諂え!私の機嫌を決して損ねるな!ブタはブタらしく生きような!いや殺すんだっけ?ひゃはははは!』


「私が相手よ!この化け物!」涙ぐみながら小山が叫ぶ。


『あ?お前、私と遊んでもらえると思ってる?自惚れてんじゃねぇよ!ブスが!お前の相手はもういるだろ?』


警備室に轟音が鳴り響く。バチバチと電気が走ったような音が鳴り、窓をみると無数の白い手や顔が張り付いている。ゾンビのような姿である。

悪霊たちは感電したような状態だがものともせず、窓を叩きわろうとし、ヒビが入る。やがて窓から侵入してきた。


「な、なんと!結界が弱まるのを待っておったのか!」佐野はしてやられた!という表情である。


『あんた達はもうおしまい。一緒に仲良く異世界ライフを送りましょーね♡』


の高笑いが店中に響き渡る。悪魔のような、怨霊のような笑い、形容する表現すら見つからない。

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