第8話 神輿
「ちょっと九頭龍さん!怪我してるじゃないですか!」駆け寄る小山。ショートヘアが似合う事務服を着たヤマモトデンキの社員である。
「大丈夫ですか!?九頭龍さん!」バーコード頭に白シャツネクタイの男性はヤマモトデンキの店長である。
「大丈夫です。ちょっと口を切った程度です。」
九頭龍は天を見やる。天は壁にもたれて眠っているようである。九頭龍はトイレで起こった経緯を話す。
「追い払ったのですか!?それはすごい!」
「九頭龍さん!すごいです!」
しかし九頭龍は少し考えているようだ。表情は真剣である。
「歩きながら話しましょう。俺達は大きな思い違いをしているのかもしれません。」
九頭龍は佐野と小山を見ずに呟く。そして九頭龍は天を優しく揺り起こし、そしておんぶの姿勢をとる。
「天。寝てていいから俺におぶさってくれるか?」
「ん……。」
天は返事をして腰を屈めて後ろに手を出している九頭龍にしがみついた。
「思い違い?何ですか?」小山は意味がわからないと言った感じだ。
「幽霊は透けているから攻撃が当たらないと言った考えは間違っているのかもしれません。天がさっき言ってたんです。意志の力は次元を超えるって。」
「意志の力……。」佐野も少し考えている様子だ。指を顎において意味を理解しようとしている。
「俺達はテレビや映画で見る幽霊の影響で幽霊には、お経や祝詞でしか対応する手段がないと思いこまされているのかもしれないと言う事です。」
「なんか言いたいことが分かってきました!」と小山がガッツポーズをとる。
九頭龍は小山のほうを見て微笑む。
「幽霊に物理的攻撃が完全に無効なら、天下無敵のはずだ。今頃、世の中は幽霊に支配されていてもおかしくない。それが出来ない何かがあるからだ。」
九頭龍は歩きながら独り言のように呟く。思えば応接室からほとんど進んでない。時間が経過すればするほど幽霊は強くなってしまう。一刻も早く、警備室に向かい天の回復を待って結界を貼り、尚且つ美佐子を見つけ出し、倒さねばならない。
「確かにそうですねぇ。今思って見れば九頭龍さんの言う通りかもしれん。寺や墓、神社も普段から守ってくれているのかもしれませんし、我々にも幽霊から身を守る力があるのかもしれません。幽霊がいるなら守護霊もいるはず。きっと神も。いつもは意識しておりませんでした。」
エスカレーターを降りながら、佐野も納得した様子で言った。エスカレーターには先頭に佐野、真ん中に天をおぶった九頭龍、1番後ろは小山の順番だ。家電量販店らしからぬ暗さでついている灯りは少ない。エスカレーターの下がる音だけが不気味に鳴り響く。
「神はおられますよ。弁財天様が。」
粗暴ですぐふざける九頭龍だがこの神の名を口にする時は真剣な表情になる。
エスカレーターを降りきった一同。そこはたくさんのパソコンや、携帯電話、炊飯器などが並べられている。薄暗い中光って待ち受け状態のパソコンは不気味だ。
その中を進み、バックヤードを目指す。
『『真理に近づきつつあるな。願わぬ者』』
美しいく透き通った女性の声がした。九頭龍はハッ!と後ろを振り返るが誰もいない。家電製品と通路があるだけだ。
「願わぬ者をどうして……知っている……?それは俺と弁財天様しか知らない秘密。まさか……。」
「どうしたと言うんです!何か、誰かそこにいるんですか!?」怯えた小山に問いかける。2人には聞こえていないようだ。天を見てみるがやはり眠ったままである。
『『神はいつも見守っておる。』』
優しく透き通った声が九頭龍の頭に響く。九頭龍は歓喜の声を上げる。
「勝てる!俺達は勝てるぞ!私は必ずご期待に添えてみせます!見守りください!うおぉぉるぁぁぁ!」
九頭龍は天をおぶったまま、疾走し勢いよくバックヤードのドアを蹴破った。残された佐野、小山はお互いの顔を見て呆けていたが我に返り九頭龍を追いかける。
九頭龍はバックヤードに入り警備室もわからないまま、左に向かって走っていき、暗闇に消えた。
「九頭龍さん!待ってください!そっちは商品の在庫しか置いてありません!」
薄暗いがパレットの上にダンボールが大量に置いてあり、近くには小型特殊自動車の黄色のフォークリフトが停められている。
闇の中から九頭龍が走って戻ってきた。息を切らした様子も無い。それどころか、興奮状態である。
「すみません!我が唯一無二の絶対神である弁財天様のご神託を聞き、我を失ってしまいました!さっきまでクッソ重い女をおんぶして筋肉がいかれてしまうかと思っておりましたが!今は力がみなぎっているぅぅぅ!」
佐野と小野は事情が全く把握出来ず、九頭龍が現実逃避してしまったのか?と心配になり、どう声をかけるべきか悩む。
「だーれがクッソ重いおなごじゃ……!」
目覚めた天はおんぶされたまま、九頭龍にチョップをかます。佐野と小野は天に駆け寄る。
「皆の者!祭りはこれからぞ!」
やれやれと九頭龍はため息をつきニャッと笑った。
「うるせえ神輿が目覚めやがった。」
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