第5話 意志の力は次元を超える
ソファーは真っ二つ折れ応接室に無惨に転がっている。長い手が出てきた場所からはドス黒い水溜まりが出来ていた。ゴポゴポと泡が浮き上がりそしてまた消えていく。
佐野と小山は腰が抜けたのか、応接室の地べたにへたり混んでいる。応接室の蛍光灯がバチバチと着いたり消えたりを繰り返し、ついには暗闇になった。
我に返った小山が叫ぶ。
「な、なんなんですか?!あれ!腕が!腕が急に襲ってきて!今までこんなこと無かった!声がするとか!勝手に物が動いたりはしたけど!」
小山は今までの出来事を振り返ったりとパニック状態に陥っているようだ。
「に、逃げましょう。危険すぎる……。」
佐山はしばらく絶句した後にようやく言葉を絞り出した。
「狼狽えるな。わらわがおる。」
天は黒い水溜まりを見据えている。依然として泡がゴポゴポと音を立てている。
一方、九頭龍はズボンのポケットをゴソゴソしていた。最初こそ驚いてはいたが意外に冷静な状態のようだ。
「えっと……タバコ、タバコと。」
どうやらポケットにしまったタバコを取り出そうとしているらしい。
ゴポゴポと音を立てていた黒い水溜まりから再度、白くながい腕が伸び、天の顔面めがけて飛んでいく。明らかに人間の長さの腕ではない。
「痴れ者が。」と天は呟き
いつの間にか手にした鉄扇で白い手を薙ぎ払った。白い手は巻き戻したかのように黒い水溜まりに戻っていく。
同時に家鳴りが起こり、黒い水溜まりさらに泡立った。まるで怒り狂ってきるかのような泡立ちである。
殺す!殺す!と女性の声が響く、耳にではなく脳に直接響くような感じだ。
「心配すんな。人間いつか死ぬ。今かいずれかの違いだ。」
そう言ったのは九頭龍だった。まるで幽霊を挑発しているかのように。
黒い水溜まりから女性の頭部が現れ全身が浮き上がってきた。その姿はロングヘアーなのだが頭部半分が焼け焦げていて右目は完全に空洞、左目は人間の目。つまり半分人間、半分焼け焦げた異様な姿であった。
服はボロボロで柄物のワンピースを着ているが半分は焦げている。赤く痛々しい火傷姿であり、部分的には黒く炭化している。
女はスーッと脚を動かしている様子もなく九頭龍に近づいていく。九頭龍は女を無視するかのようにポケットをまさぐっている。
女は両手を突き出し九頭龍に襲いかかった。その瞬間、九頭龍はライターでタバコに火をつけた。
火を見た瞬間、女は悲鳴を上げ、それと同時に消えた。蛍光灯の明かりがついた。
九頭龍はフーっと煙を吐き出す。
「意外と冷静なのだな。火が弱点と知っておったのか?」と天が問いかける。
「今更、ビビったところでしょうがねぇだろ。タバコ吸いたかっただけだ。それよりもだ。どうやってあの女の攻撃を弾いた?その鉄扇か?いや違うな。」
「鉄扇ではない。意志の力だ。意志の力は次元を超える。幽霊のいる場所はこの次元ではない。四次元だ。悠長に説明している時間は無い。今の時間帯でこの強さだ。丑三つ時になればわらわとて手にあまるやもしれん。」
「なるほど。意志の力か。よく分からん。しかし想定外のことが起きてるのはわかる。さっき初めての実戦になるって言ってたよな?除霊なんてしたことない俺が実戦に入るってことは、本来は余裕がある依頼だと思ってたってとこだろ?」
「その通り。言い訳はせぬ。予想よりも数が多いし、想定よりも強かった。わらわの落ち度だ。すまぬ。」
「謝らなくていい。打開策を考えるぞ。何か良い策はないか?」
「さっきの女を探して倒すしかない。あれが他の霊たちを従えておるであろう。」
佐野が何かを閃いたように話に割って入る。
「あ、あの!警備室に向かうのはどうでしょうか?あそこなら監視カメラで店内をくまなく見渡せます。無線機もおそらくそこにあるはずです。私と小山で監視カメラで女を探して天川さんと九頭龍さんに知らせて退治してもらうと言うのは?」
「監視かめらなら店内が分かるのか?仕組みは分からんが、名案じゃのう。」
「すみませんね。店長さん。こいつ、機械に疎くて。」
九頭龍が機械に疎い天のフォローをする。
一方で小山は「天様、可愛いです♡」などと楽観的ではあるが、皆、落ち着きを取り戻したようで、九頭龍も安堵した。
「皆の者、監視室とやらに参るぞ!わらわについて参れ!遅れをとるな!」と天が叫ぶ。
「お前、監視室の場所、知らないだろ。」と九頭龍は冷静にツッコミを入れる。
「天様、天然♡可愛いすぎます♡」と小山が言う。
天は恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にして
「う、うるさい!さっさと参るぞ!愚図!ウスノロ!」といい、顔をプィっとした。
「あれ?どこに参るんでしたっけ?」と意地悪に九頭龍は笑った。
「うるさい!このいけず!」と天はすっかり拗ねてしまったようだ。
「監視室は3階のバックヤードにあります。ここは4階ですから、1階下になります。エレベーターは故障中ですので階段かエスカレーターを使いましょう。」と佐山が言う。
「では3階に参るぞ。さっさと案内せよ。」
こうして一同は応接室から三階のバックヤードの監視室を目指すことになった。
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