第3話 意志の力は次元を超える2
一通りはしゃいだ天は落ち着きをとり戻し、事務員の案内でエスカレーターを登る。エレベーターはどうやら故障しているらしい。
広い店内は大量の家電製品が展示されており、どれも目を引く。しかし、何か沢山の黒い影が蠢いているのに九頭龍は気がついた。
まだ店内は明るかったし、いつもは営業時間でもあるはずなのに蛍の光のアナウンスが流れている。
エスカレーターを登る天は「動く階段じゃ。珍妙じゃのう。」と店内のあちらこちらを見回して時折はしゃいでいた。
誰もあの影に気づいていないのか?しかし先頭の事務員、さっきネームプレートを見たが主任の小山郁子さんは心做しか震えているようにも見える。
小山さんは少し茶色のショートカットが良く似合う清潔感溢れる女性だ。だが、先程までの明るく愛想のよい店員の鏡の姿はなく、顔が強ばっているようだ。
一方、九頭龍の前に並ぶ天は黒い羽織りを纏っていてその羽織りには「天地清浄」と白い文字が大きく記されていた。しかし細く白い生足に黒い雪駄鼻緒は赤である。少し目のやり場に困る。
視線に気がついたのか天が振り向く。
「なんじゃ?わらわの下着でも覗いておったのか?盛りのついた雄犬めが。」と罵られた。
「違ぇよ。影だよ。さっきから影がこっち見てるんだ。」
小山さんを怖がらせまいと小声で話す九頭龍。すると天は少し驚いた顔をして
「そなたも気づいたか。第3の目の開眼は成功のようじゃの。わらわ達を歓迎というわけでは無さそうじゃ。」
「ありゃなんだ?敵意を感じるぞ。30人?はいるかもな。」
「悪霊じゃ。30体では無い。正確には56体潜んでおる。」
小声でヒソヒソと話す九頭龍と天
「で?どーすんだよ?アイツらをぶちのめすのか?」
「まぁ話が通じる相手ならば成仏もさせてやるが、多分無理であろうな。これだけの数、悪霊の集団...何か目的があってここにいるのであろう。そやつらを束ねているものがおるはずじゃ。それを見つけ出して祓うしかない。」
ヒソヒソと話していると急にバッと小山郁子が振り向いた。
「あれが視えるんですか?!オープンして間もないのに夜になると影がいっぱい動きだして!私、もう怖くて!声も聞こえてきて!家電も急に動くし!怖い!」
心底、怯えているようで自身の両腕を抱きながら震えている。先程までの明るい表情などはなく、涙で崩れそうになる小山郁子がいた。
天は優しく小山を抱きしめ頭を撫でた。
「わらわと九頭龍が来たからには安心じゃ。何も怖がることはない。悪霊はわらわと九頭龍で退治してくれる。安心せよ。」
俺も頭数に入ってんの?俺、悪霊とか退治したことないんですけど?なんなら対峙したのさえ初めての経験ならぬ、初めてのお使い気分の九頭龍はドレミファソラシド~~~♩ドシラソファミレド~~~♩と現実逃避に歌い出したい気分であった。
しかし女の涙にめっぽう弱い九頭龍はプライドが許さないのか、気の効いたセリフを精一杯絞り出す。
「任せてタモーレ、アモーレ、ショッピングモーレ。」
完全に滑った。九頭龍は後悔したが妙な芸人魂に火がついたのか
「任せてクレメンス。」自分の顎に親指を刺しながらウインクして見せた。
天は無表情でジト目で九頭龍を見つめる。
「まぁ、あの阿呆はほおっておいて問題ない。」
滑った九頭龍は顔を真っ赤にして怒る。
「阿呆っていうやつが、阿呆なんだ!あーほ!あーほ!べろべろばぁー!」
「わらわに対して無礼な口のきき方をしおって!悪霊の前にそなたから退治してやろうか?」
「上等じゃねぇか!かかってこいよ!」
「ぷっ」
小山郁子が思わず吹き出す。先程の強ばっていた表情が緩み笑顔に溢れた顔が戻る。
「お二人さん、仲がいいんですね。怖がってる私が馬鹿みたいになっちゃいました。」
「よくない!」と九頭龍と天は同時に言った。
このくだらないやり取りをしつつ、応接室に辿り着いた。悪霊は警戒しているのか?それとも何かを企んでいるのか?遠くから様子を見てるだけだった。九頭龍にはそれが返って不気味に感じた。
そして部屋のドアを小山がノックした。
「店長、失礼します。天川天様、九頭龍様がお見えになりました。」
内側から「どうぞ。」と声がしたので中に入ることにした。まずは店長の佐野から情報をききださなくてはならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます