第2話 侵略者
練馬駐屯地は異常事態に幹部の招集と非常事態に備えての全部隊の臨戦態勢を指示する。休暇中の自衛官の緊急呼集も行われた。
偵察隊の三島陸曹長は叩き起こされ、部下達を連れて、営倉前に集まる。
まだ、夜明けには早い。薄暮で薄っすらと部下たちの顔が見える。
皆、不安そうな表情をしている。災害となれば、最前線に投じられるのだ。
そこに小暮小隊長が姿を現す。
「緊急事態らしい。都内全域で停電、また、通信途絶状態である」
三島も含めて部下達が動揺する。
「安心しろ。新宿区以外での被害はあまり確認されていない。地震のような広域災害ではないみたいだ」
その言葉に三島が挙手をする。
「では、どのような災害でありますか?不発弾の爆発とか?まさか・・・ミサイルなどの攻撃ですか?」
敵性国家からの攻撃。つまり戦争状態と言える事態。それは最悪の事態だと考えられる。だが、それに小暮は首を横に振る。
「違うようだ。新宿の状況は未だ不明。ただ、都外の駐屯地等との通信が途絶しているそうだ」
「通信とは・・・無線もですか?」
「そうだ。広域無線等にも応答がない。ただし、都内においては全ての無線は問題が無い。その為、都外において、電波妨害が行われている可能性がある。我々は都外の部隊との連絡を行い、状況の確認を行う任務に就く可能性がある。これより装備の確認を行え」
即座に移動に必要な車両の点検が始まる。
当然ながら、基地外に出るにしても現状、戦争状態で無く、政治的判断がなされていない現状においては偵察任務とは言え、非武装で行う必要がある。
偵察用オートバイが二台、73式小型トラック2台、高機動車2台で1部隊が編制され、これらが7部隊、編制された。
彼らに与えられた命令は都外の駐屯地へと移動して、状況の確認と連絡手段を確保する事であった。
三島は第1偵察隊を任せられた。
目的地は朝霞駐屯地。
練馬からならば、最も近い都外の駐屯地であった。
30分も掛からず、到着するはずであった。
政府からの指示はまだ無いが、偵察任務は時間との勝負であった。
非常事態において、独断で行う事は必要事項であった。
防衛省では防衛大臣との連絡を欠いたまま、情報収集に最大限の力を入れていた。
篠田統合幕僚長は練馬駐屯地から偵察隊が出た事を聞いた。
「警察も混乱している。あちらから情報がまったく来ない。偵察隊だけがこちらの唯一の目になるだろう。逐一、報告をくれ」
その時、一人の自衛官が駆け付ける。
「持田防衛大臣と連絡が付きました。現在、首相官邸において、総理を含む閣僚会議を行っている最中です。防衛省の官僚が連絡役をしてくれます」
「そうか。無事ならよし。常に連絡が可能な状態を維持しろ。必要があるなら、こちらに安全に移動していただける準備を整えろ」
「了」
「習志野とも連絡がつかないのか?必要があれば、陛下を安全な場所まで避難していただく事が出来なくなるぞ」
「習志野、木更津とも音信不通。海自も東京湾に居る二隻の護衛艦のみが確認されています」
情報収集をする職員達にも疲労の色が滲む。この非常事態が起きて、3時間が経とうとしているのに、まだ、誰も正確な情報を掴むに至っていない。
警視庁は警察庁や消防庁と連携して、事態の収拾に当たっていた。
新宿を覆う粉塵は徐々に晴れていき、現場に残っていた警察官や消防官が状況を確認し始めていた。
大量の瓦礫があり、その上に巨大な構造物がある。
それはまるで塔のようだった。明らかに金属質な外観。だが、圧倒的に大きかった。新宿区を丸々、塔にしたような巨大な構造物。高さはスカイタワー程だろうか。あまりの大きさに個人では全容が見渡せる程であった。
宮坂巡査部長と佐々木巡査は状況を報告しつつ、生存者が居ないかを呼び掛けた。多分、新宿に建っていただろう建物の全てがこの巨大な構造物に圧し潰されたのであろう。粉々になった瓦礫の彼方此方で悲鳴や怒号、呻きが聞こえていた。
この状況でも生存者は多数、居るようだった。
この謎の構造物を調べるより先に生存者の救出をせねばならない。
宮坂達は声のする方に向かった。
だが、彼らが向かった先に待ち受けていたのは生存者を襲う謎のロボットであった。
軽自動車並みの長方形の身体に蜘蛛のような六本の脚を持ったロボット。
それは器用に脚を動かし、素早い動きで生存者達に襲い掛かっていた。
宮坂達はまだ、100メートル以上ある距離からその光景を眺めるしかない。
3人の生存者達はロボットから逃げる為に走るも、追い付かれ、一瞬にして、その体は裂かれた。宮坂達は何が起きたか解らない。ただ、あのロボットがやった事だとは理解が出来た。
三人を殺したロボットはその場に立ち止まり、新たな獲物を探すように体を左右に動かす。そして、見つけた。宮坂達を。
ロボットは虫のように素早く、宮坂達に迫った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます