東京孤立

三八式物書機

第1話 宇宙から飛来した物体

 1999年8月8日未明

 一つの隕石が火星方面から地球へと飛来した。

 それは関東地方周辺に落下したと思われたが、発見には至らなかった。

 それは天体ショーとしてはその界隈では騒がれたが、世間的には些末な事だった。

 それから26年の時を経た。

 

 2025年3月初頭

 世界中の天体観測を行う機関や個人は驚いた。

 火星周辺で大きな空間の歪が起きた。

 何が起きているかを説明が出来る者は居ない。

 ただ、観測のみが重点的に行われている。

 重力波が多量に検知された。

 異常事態であった。

 宇宙で何が起きているのか解らぬまま、時だけが過ぎた。

 それから3か月が過ぎた。

 5月3日未明。

 防衛省庁舎で当直に当たる二階堂一等陸尉は書類仕事をしていた。

 世界は平穏で何事も無く時間が過ぎている。

 国防を担う身からすれば、ありがたい話であった。

 だが、そんな平穏を奪い取るように警報が鳴る。

 すぐに何が起きたかを確認する為、表示されるメッセージを読む。

 「衛星軌道上の人工衛星並びに宇宙ステーション全ての破壊を確認」

 異常事態であった。人工衛星が破壊された原因は不明ながら、国防上の大きな危機である。他国による破壊活動であれば、戦争であるし、何からの自然災害となれば、宇宙から何かしらの脅威が迫っている可能性がある。

 「すぐに防衛大臣に報告。幹部の非常呼集だ」

 二階堂はすぐに部下達に命じた。

 戦争状態であれば、他国の軍隊の動きを注視せねばならない。

 幸いにも海自や空自から侵攻の兆しを捉えた報告は無い。

 無数の隕石の接近を考えれば、地上に落下する恐れがある。

 宇宙で起きている事からして、情報を集めるにはジャクサに尋ねるしかない。

 二階堂は固定電話に手を伸ばそうとした。

 その時、激しい揺れが起きる。

 地震

 そう思った時、建物全体を襲う衝撃。窓ガラスが割れる音がした後、電灯が全て消えた。二階堂は机の下に潜り込んでいた。

 揺れはすぐに収まり、二階堂は立ち上がるも室内は非常用電灯のみの灯りであった。赤い灯りの中、手探りで机の上にある電話機の受話器を手に取る。

 受話器を耳に当てるが、回線は途絶していた。

 「停電・・・都内全域だろうか?」

 人工衛星破壊と地震。最初に思ったのは多数の隕石の落下であった。

 「都内に落ちたとすれば、大事だ。すぐに情報を集めないと」

 二階堂は次に関係各所と連絡をする為に通信室へと向かった。


 都内は大惨事となっていた。

 新宿をパトカーでパトロールをしていた宮坂巡査部長と佐々木巡査は突然、大きな揺れと共に衝撃を受けて、パトカーは吹き飛ばされ、横転した。

 数度、転がったパトカーは一瞬にして廃車となったが、幸いにも二人に大きなケガは無かった。二人は何が起きたか解らぬまま、パトカーから這い出した。

 周囲は粉塵に覆われ、息も出来ない有様であった。

 視界は酷く悪く、数メートル先さえも見通せない。

 「地震か?建物が倒壊した可能性が高いな。下手に動くと危険だ」

 宮坂は視界が戻るまで、その場に留まる方が安全だと判断した。

 二人は横転したパトカーに身を寄せながら、無線機で所轄署である新宿署と連絡を取ろうとしたが、応答は無かった。事態が事態だけに即座に本庁と連絡を取る。

 本庁の通信指令センターからの情報では現在、都内全域で停電が起きており、特に新宿を中心に所轄、交番、パトカーとの連絡が途絶しているらしい。新宿で唯一、無線連絡が通じているのは二人だけのようだった。

 酷い粉塵の中で宮坂は何が起きているのかと不安が募るだけであった。


 消防本部では情報が圧倒的に不足していた。

 一般回線が途絶している為、市民からの通報は所轄の消防署に直接、入った分だけであったが、明らかに都内各所では消防、救急の需要は急速に増えているはずだった。だが、そのすべてに対応する事は困難だと判断するしかなかった。

 所轄の消防署での情報収集では東京都を囲むように濃霧が発生しており、その中で火災や事故が多発しているとの連絡があり、消防、救急、消防団が駆け付けたものの、彼らは通信を途絶した。

 彼らの安否が不明な為、濃霧内での作業は命の危険があると判断して、濃霧への立ち入りを一切禁止にした。

 そして、新宿区の壊滅。

 当該地域の消防署との連絡は途絶。

 安否に確認も難しい状態であった。警察にも通報したが、警察も同様であり、憶測ではあるが、何らかの災害の中心点となり、壊滅したと思われる。被害者は多数だろうが、酷い粉塵と都全域の混乱で救援の手立てはない。

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