第33話 ニュース
「よいしょっと」
ネット注文から数日。リビングには宅配で届いた段ボール箱が積まれていた。中にはカップ麺や冷凍食品等が詰まっている。
そして、その横ではあいりが呆れたように箱を覗き込んでいた。
「……ゆうちゃん、不健康」
「はは、最近の冷凍食品って美味いんだぜ?」
悠斗は買ったばかりの専用冷凍庫に次々と食べ物を詰めていく。
「お好み焼き、うどん、弁当、たこ焼き、チャーハン……完璧だな」
満足気に冷凍食品を収納すると、カップ麺を取り出してテーブルに置いた。そして、お湯を注いでテレビをつける。
——お昼のニュースです
腹時計は正確なんだなと思いながら、カップ麺の蓋を剥がす。画面には地元のニュースキャスターが映っていた。
悠斗が麺をすする中、今週の天気を読み上げている。
——台風の進路予測ですが……
「雨降って涼しくなるのは良いけど、こっち直撃は勘弁だな」
「あいり、てるてる坊主作るよ!」
「……はは」
それで天気がどうにかなるなら、沖縄のシーサーは違った形になってそうだと、苦笑いした。
——次のニュースです
アナウンサーの言葉と共に、経済ニュースに切り替わる。麺をすすりながら、画面をぼんやりと見ていた。
その後は政治のニュース、スポーツの話題と続き、最後に県内で起きた事件が読み上げられる。
——昨日、午後2時頃……
聞き覚えのある地名だが、特に興味は湧かない。悠斗は麺を食べ終わると、スープを飲み干す。
「……チャンネル変えるか」
そう呟き、リモコンに手を伸ばそうとした時だった。
——次のニュースです。県内出身でモデルの如月カレンさんが……
ニュースキャスターが伝える名前。それは見知った名前だった。伸ばそうとした手をピタリと止める。
——芸能界引退を本日発表しました
「え?」
ニュースキャスターの言葉に耳を疑う。
「……引退?」
画面にはカレンの過去のテレビ映像やCMが流れていた。
「どうしたの?ゆうちゃん」
あいりは悠斗の顔を覗き込むと、不思議そうに首を傾げる。
「いや、ちょっと……知り合いって言うか」
——事務所の発表によりますと『夢が叶いました。芸能活動に未練はありません』との事です。
「……この子?」
あいりは画面に映るカレンを見て、再度首を傾げた。映像は先日の商店街のコスプレイベントに切り替わる。
……全然そんな気配なかったよな。
悠斗はまた切り替わるカレンの映像を見ながら、スマホでSNSを開くと検索をかけていた。
——カレンちゃん、どうして引退しちゃうの?
——めちゃくちゃ推してたのに!
——夢が叶った?アイドルデビューは?
ネット上には、カレンを惜しむ声や引退を反対する声が散見された。
「……なんで辞めるんだ?」
あいりがジッと眺めているテレビのカレンは、いつも変わらない笑顔を画面越しに振り撒いていた。悠斗はラインを開きカレンとのトーク履歴を見つめる。
……聞けば答えてくれるだろうか。
そう考えながら、メッセージを打とうとするのだが、
「……いや」
どうしようも出来ない重い理由だったらと、送信する指が止まる。
……こういうのは向こうから話してくれる時の方が良いよな。
そう考え、メッセージを削除した。
「羅神でもやるか」
カレンがいるなら、その時は話題に出せば良い。スマホを横向きにするとゲームにログインした。
テレビは次のニュースに切り替わると、先程まで画面を眺めていたあいりが、何かを思い出したかのように口を開く。
「ゆうちゃんの友達……カレン……友達……花蓮ちゃん?」
その小さな呟きが悠斗の耳には届く事はなかった。
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