第20話 あいりと日曜日

 翌日。蝉の声が響く昼下がり。悠斗は冷房が効いたリビングで、のんびりと休日を謳歌していた。

 床に寝転びながら、羅神のデイリークエストを消化していく。


「限定は貰えたの?」


 くつろぐ悠斗の後から声が掛けられる。振り向けば、黒く長い髪が揺れた。日焼けを知らない白い肌。ワンピースを纏ったあいりがそこに立っていた。


「ああ、ほら」


 悠斗はゲーム画面をあいりに向ける。


「ん〜わかんないよ〜」


 隣に座るあいりは画面を見ながら、舌を出した。


「はは、結構並んだんだぜ?」

「お友達と行ってきたんだよね?」

「ああ、翔のやつ20分も遅れてきやがってさ」

「……また翔ちゃん」


 機嫌が悪くなったのか、言葉尻が萎む。その人間らしい感情の変化に「彼女はなんなんだろう」と疑問に思う。


 いつの間にか現れて、知らぬ間に消えている存在。こんな日差しの強い真昼間から現れる彼女を、幽霊と言えるのだろうか。


「あ、ごめんね。ゆうちゃん」

「いや……」


 悠斗の視線に気づいたのか、申し訳なさそうに下を向いた。


「アニメは見なかったの?」


 話題を変えるかのように、あいりは床に置かれたパンフレットを指差す。


「そっちは興味なくてな。コスプレイヤーってのを見てきたよ」

「コスプレ?ゆうちゃん、わかるの?」

「羅神のコスプレだけだけどな。一人すげぇのがいてさ」


 悠斗はスマホをスクロールすると、一枚の写真を見せる。それは、天星るきあの写真だった。

 その横には吹き出しコスプレが強烈な個性を放っている。


「綺麗な人〜」

「俺が使ってるキャラにそっくりだろ?」

「うんうん」


 スマホを覗き込むあいりに写真を見せながら、そのクオリティの高さを語る。彼女は笑顔を浮かべて相槌を打ってくれた。


「凄い美人さんだね。アイドルみたい」


 あいりは写真を見ながら、率直な感想を述べる。


「確かに有名人っぽかったな」


 コスプレエリアの中で一番人を集めていた。気になった悠斗は『天星るきあ』と検索をかけると、すぐにSNSのアカウントが出てくる。フォロワー数5万。トップには写真集発売中の投稿とリンクが貼られていた。


 他の投稿を見れば様々なキャラクターのコスプレ写真がアップされている。

そして同時に、


「ふふっ、この横の人いつもいるね」


 あいりは一緒に映る吹き出しコスプレを見て、小さく笑った。


「変わったコンビだよな」


 ハッシュタグの『#モデルは現地調達派』を押すと、吹き出しコスプレの人が色々なコスプレイヤーと写る写真がアップされていた。

 昨日のイベント会場と思われる場所でも、様々なアリスとコラボしている。


「コミュ力の塊かよ」

「ゆうちゃんもがんばろ?」

「はは、無理無理」


 悠斗は到底真似出来ないなと思いながら、スマホを閉じる。そして、テレビをつけるとお昼のニュースが流れていた。


「本日は気温が35度を超える猛暑日になるでしょう」


 ニュースキャスターが熱中症への注意を促している。


「お出かけする?」

「おまえ、ニュース聞いてたか?死ぬぞ?」

「だって、せっかくの日曜日だもん」


 この暑さの中を外出する気はないと、首を横に振る。あいりが不満そうな表情を浮かべているが、それを無視してリモコンで動画配信に切り変えた。


「あいり、アニメ観たい!」

「……アニメねぇ」


 特に観たい映画が見つからず、アニメのリストをスクロールする悠斗にあいりは期待の眼差しを向ける。


「小鳥遊ってアニメオタクが薦めてきたやつ見るか?」

「うん!ゆうちゃんも一緒に見よ〜」


 あいりは悠斗の横で嬉しそうに足をバタつかせた。


「ソファ買うか。床に座って見るのはキツイわ」

「ゆうちゃんの側なら、あいり床でもいいのに」

「俺の足と背中が死ぬ」


 悠斗は苦笑いを浮べると、アニメの再生ボタンを押した。


「異世界転生ねぇ……」


 観た事もないジャンルに悠斗がハマるのは、この数時間後。その日、深夜までアニメを見続ける事になるのであった。

 

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