第16話 最上級ダンジョン

——悠斗、家着いたら羅神な


 放課後、翔子からそんな声をかけられ帰路につく。エレベーターのないマンションの4階。慣れてきたとはいえ、少しばかり憂鬱になる。

 

 悠斗は玄関の扉を開けると靴を脱ぐ。そのままリビングを素通りし、自室へ。

 そして、鞄を置くとすぐにゲームの準備を始めた。


——ゃん


「ボイスチャットアプリを開いてっと……」


 昼休みに翔子から教えてもらったアプリを起動する。一覧には昼に登録したばかりの翔子のアカウントが表示されていた。


「おまたせ」

「遅い……羅神にログインして」


 アプリを通して不機嫌そうな声が聞こえてくる。悠斗は言われるがままにゲームにログインした。


「すげーなこれ。話しながらゲームできるって」

「でしょ?いちいちチャット打たなくてすむから楽なの」

「確かにな」

「んじゃ、イベントダンジョン行くから」


 悠斗は回復特化のキャラ「アリス」を選択する。白髪の少女が左手に十字架を、右手に大きな鎌を持って現れた。

 黒いローブを羽織り真紅の瞳を光らせる。種族は吸血鬼。その設定に相応しく敵にダメージを与えた分だけ、味方を回復するスキルを持っていた。


 星5の最高レアリティ、攻略サイトの最新評価はSSランクのTier1。手にする武器も星5の最高レアリティ。

 どちらも廃課金に相応しい完凸だ。


「サポートよろしく」

「おう」


 翔子が操るのは同じくTier1の赤髪の剣士。炎を纏う大剣も星5だが、こちらは無凸だった。


 ダンジョンに入ると青白い水晶が輝く幻想的な空間が広がっている。そして、すぐに押し寄せるモンスターの大群。


 翔子は赤髪の剣士を使い、縦横無尽に駆け回りモンスターを斬り刻んで行く。悠斗はスキルをばら撒きながらサポートだ。


「なぁ、俺のキャラって5凸からアタッカーにもなれるブッ壊れらしいけど、ほんと?」


 悠斗はコンボの合間を縫って、翔子に尋ねた。


「そうだよ、動画見てないの?」

「見たけどよくわからなくて」


 羅神はアクションが多めで属性コンボも複雑。それなりの強さまではゴリ押しでキャラ性能を出せるようになっているが、そこから先は知識と経験が必要だった。


「完凸アリス……もったいな」

「……はは」


 翔子の嘆きに思わず苦笑いが溢れる。


「とりあえず悠斗は回復ばら撒いて」

「お、おう」


 指示された通りに回復スキルを使う。最上級ダンジョンで、それなりに痛いダメージを食らうのだが、二人のHPは殆ど減らない。


「ここ四人推奨だけど、二人でもいけるね」

「回復特化ってすげーな」

「完凸アリス入りならソロ攻略もいけるよ。動画上がってた」

「まじかよ……」

「ガチパ組んで4キャラ切り替えとコンボミスったら死ぬけど」

「できる気がしねえ」


 悠斗は苦笑いを返す。


「んじゃ、周回するから」

「おう」


 そんな事を話しているうちに最奥のボスを討伐していたようだ。「もう終わりですか?退屈ですね」と、アリスがポーズをキメながら呟く。

 そして、画面が光に包まれると、遺跡の入口に戻された。


「討伐証(赤)ってのがイベントアイテム?」

「うん、それで限定アイテムと交換」

「なるほどな。んじゃ、周回行くか」

「りょーかい」


 そんな会話を交わすと、すぐに二人は遺跡の扉を開き周回を始めるのだった。


——ちゃん


***


 ゲームを始めて4時間。このペースなら40週はいけると言う翔子の言葉通り、周回は順調に進んでいた。


「しんど……」

「まだいける」

「まじかよ」


 悠斗はぐったりとした表情で画面を見る。


「腹も減ったし休憩しないか?」

「全然減ってないけど」


 どうやら、廃プレイヤーの翔子とは感覚が異なるようだ。


「目も疲れたし、今日は終わりにしようぜ」

「……わかった。一人で上級回ってるからやるなら教えて」

「ああ、期待はするなよ?」


 そう言うと悠斗はゲームを落とし、重い腰を上げる。時計を見れば22時を回っていた。


「飯食って風呂入って寝るか……」


 こうして悠斗の一日は終わりを告げる。


——ゆうちゃん


 その日、悠斗があいりに気づく事はなかった。


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