第8話 放課後の冒険者
「起立!例!さよならー!」
「みんなー、気をつけて帰るんですよー」
小学校か?と、ツッコミたくなる気持ちも浮かばない程、見慣れてきた日常が、一日の終わりを告げる。
天然を思わせるのんびりとした口調の女教師は、「りっちゃん、またねー」と、生徒達の気軽な愛称呼びも気にする事なく、手を振って見送っていた。
いつもの悠斗なら、ここで彼らと同じように帰路につくのだが、後ろからツンツンと刺される指の感触が、いつもと違う終わりを告げる。
「悠斗、続きやろーよ」
後ろの席のやつ——翔は、当たり前のようにスマホを横に向け、悠斗を誘う。
「おう」
悠斗も、初めて出来た友人からの誘いを断るような事はしない。それが、共通の趣味なら尚更だ。
椅子を翔の机へと向け、向かい合うようにスマホを取り出す。
「あらら?柊くんにも、友達ができたのね!」
その声に反応して黒板の方に振り向くと、先生感激!と、目を輝かせたりっちゃんがいた。
足早に教室から去る生徒の波に逆らうように、悠斗達の方へと近づいてくる。同時に柑橘系の香水の匂いが、鼻をかすめる。
「律子先生、今日は香水がキツいですよ」
悠斗は思った事をそのまま口に出した。高校生だから許される台詞であり、大人のそれもデートの場面であったなら、好感度は大きくマイナスになる危険な台詞だ。
そんな無神経な台詞に、律子先生は顔色を変える事もなく、
「二人とも、暗くなる前に帰るんですよー」
小学校か?とツッコミたくなる気持ちを刺激する。
「りっちゃん、ゲームの邪魔しないで」
空気を読む事をしない翔が、辛辣な言葉の槍を勢いよく投げつけた。おまえはおまえで、反抗期の中学生か?と、またまたツッコミたくなるが、泥沼になりそうなので、その気持ちを抑えつけた。
「もう!わかりましたよー。先生は二人の邪魔はしませんよー!だ」
まるで中学生にいじめられた小学生のように、律子先生は肩を揺らせ、頭からプンプン!と可愛らしい怒気を発しながら、生徒達の波に乗り去って行く。
「りっちゃん、どんまーい」と、一部始終を見ていた生徒からは、親しみを込めた声援が送られている。
「なあ、良いのか?あれでも、先生だろ?」
「良いの。そんな事より、早くインしてよ」
好きな事以外には興味がなさそうな友人に流されるままログインした。
羅神はソロプレイの時は、パーティを4人で構成できる。そして、二人プレイの時は半分づつで4人パーティを構成するのだ。
ただ操作できるのは1人1キャラの為、キャラをタップして瞬時に入れ替える必要がある。
必殺モーション中にキャラを入れ替え、コンボを繋げてたり、属性を重ねて大ダメージを出すのが、一つの魅力となっていた。
悠斗はレベル上げを引っ張ってもらう為、遠距離の弓使いのウェンディと、回復特化のアリスを選択した。翔は火力兼タンクを2キャラだ。
中世ヨーロッパ風の街並みに、二人のキャラクターが並ぶ。
「アリスは育てたら強いよ」
「やっぱそうなのか?攻略サイトでもS評価だったんだよな」
「ウェンディは中盤までは奥義が便利かな。竜巻で敵を引き込んでまとめて、そこに他キャラの属性反応でコンボが決まるの」
日間の上級ダンジョンの回数が、まだ消化しきれてなかったから、ワープで飛ぶと「ほら、やってみて」と催促されるまま、奥義の竜巻をブッ放す。
そこに翔が操るイケメン剣士が、大剣に炎をまとわせた必殺技を放つと——竜巻は赤く燃え上がり、引き込まれたモンスター達に見た事もない5桁のダメージを刻んでいた。
「凄いな、これは」
「悠斗のは進化も進んでるから、倍率が違うんだよね」
「この廃課金め」との視線に、愛想笑いで返す悠斗。家賃は節約しても、趣味のゲームは節約出来なかったのだ。
「悠斗、武器ガチャも回したでしょ」
「ああ」
「この鎌とアリスは、凶悪だから」
「回復担当って、やっぱ必須かな?」
今のところ、ソロだと課金武器と進化した星5キャラで過剰火力だったのだ。回復の必要性がイマイチ分からないと、首を傾げた。
「協力プレイで上級ダンジョン行くなら、必須だよ。一瞬で削られるからね」
「じゃあ、育てとくわ」
「そのキャラ持ってないから、回復は悠斗に任せる」
すっかり人気の消えた教室で、二人は呆れ顔を浮かべたりっちゃんが来るまで、ゲームに夢中になっていた。
りっちゃんイメージhttps://kakuyomu.jp/users/siina12345of/news/16818093090458054507
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