第7話 ゲームで咲かせる花見景色
爽やかな春の残り香と、夏の訪れを予感させる日差しが差し込む屋上に二人の影。
悠斗達は弁当を食べ終わると、現代っ子らしくスマホを取り出していた。
画面の時刻は、昼休みがまだ20分程残っている事を教えてくれる。悠斗はそれを確認すると、どうやってぼっちを卒業しようかと、もう一人の現代っ子の方を見る。
視線の先にはスマホを横に持ち替えて、両手でガッチリと固定する姿が映る。
「ゲームか?」
「あ?……ああ」
覗き込むように急接近してきた隣人に、嫌そうな表情を隠す事もなく、悠斗から離れるように身体を傾けた。
見た目に反して対人スキルの低い悠斗は、普段ならその些細な仕草にも敏感になるのだが、スマホに映る見慣れた画面に思わず声をあげる。
「あれ?これ羅神じゃん」
「うん?知ってるの?」
「ああ、俺もやってるぜ」
——羅神
オープンワールドのアクションRPGだ。美しいアニメ調のグラフィックは、3Dを感じさせないが、れっきとした3DアクションRPGである。
キャラクターは、スマホゲームらしくガチャから排出され、最高レアキャラは2万円ほど課金しないと入手不可な重課金ゲームでもある。
「冒険者レベル42って、結構やり込んでるな」
——冒険者レベル
ストーリーを進めたり、毎日のお使いクエストをクリアするとレベルが上がるシステムであり、課金とは関係ない為、一つのやり込み指針となる。
発表されたばかりの羅神で、冒険者レベル40を越えれば先行組と呼ばれる立派な廃プレイヤーなのだ。
「へへへ、そうだろ?」
先程まで、悠斗に興味がなさそうに無愛想だったやつが、初めて笑顔を見せる。
「おまえもやってるなら、一緒にダンジョン行こうよ」
初めての友人らしい誘い。その笑顔と誘いに嬉しくなり、スマホを取り出すとゲームを起動させた。
「へぇ、冒険者レベル23……って、初心者抜け出したくらいか」
「寄り道とか地図埋めたりしてたら、あんまり進まなくてさ」
「どんなキャラいるか見せてよ。強キャラ教えてやるからさって……えぇ!?」
先程とは打って変わって、密着するように画面を覗き込む美少年は、悠斗とは一回り小さいその小柄な体型に似合わない驚愕の声をあげた。
「おまえ、星5キャラ全部いるじゃん……それに進化まで」
星5とは最高レアキャラであり、それが重複すると進化という強化が可能な一種の廃課金プレイヤーの指標である。
普通の高校生ではあり得ないキャラの揃い具合を、突然転がり込んできた幸運によって可能にしていた。
リセマラ——初期ガチャで良いキャラを引くまで、繰り返す行為——じゃ、こんなに揃わないよな、と悠斗の画面を見ながら呟く声。
「ほら、昼休み終わるまでに、ダンジョン行こうぜ」
「……ああ」
悠斗は廃課金を誤魔化すように声をかける。
「フレンド送るから、キャラ名教えて」
ごく自然にフレンドという単語を発せた自分に、悠斗は心を踊らせた。
「S・H・O・Uで、翔だ」
「翔って名前から?」
翔ならSHOじゃないか?と疑問に思うが、野暮な事になると無意識の警告が、それを閉ざす。
「ああ、そうだけど?」
何か?と言いたそうな程、少し不機嫌になる翔。ローマ字のミスを後から気づいたのかと思いつつ、それを口に出すミスは犯さない。
「俺は悠斗だ。宜しくな、翔」
「おう!」
野暮な疑問にツッコまない事が、功を奏したようで、翔はまた笑顔を向けた。
翔のゲーム画面に、YUの文字がフレンド申請と共に浮かび上がる。
「悠斗はキャラ揃ってるのに、キャラレベルは低いんだな」
「先行組と一緒にしないでくれよ」
「じゃあ、とりあえず日間クエの上級ダンジョン行こうぜ。上がるぜー、レベルが」
少し前まで、まったく火のつく気配のなかった空気が、一瞬で加熱する。無口に思えたやつが、ゲームになると饒舌に語り、無愛想を隠す事もない無表情が、今は笑顔を彩っている。
悠斗もゲームが好きであり、自然と笑みと言葉が溢れていた。
「バカ!下がれ!悠斗」
「いってぇ!これが上級かよ、キツすぎるって」
「キャラは良いんだから、適正レベルになるまで、悠斗は後ろな」
初めて咲いた花に包まれて、昼休みは過ぎてゆくのだった。
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