第3話実験

着物姿から着替えた宮本大次郎は、スラックスとジャケット姿で楽屋で紅茶を飲んでいた。

コンコン


と、楽屋の扉をノックされた。宮本は、

「どうぞ」

と、言った。黒井川と仙岩寺は楽屋に入る。

「何の御用で?」

「二、三話しを伺いたくて」

と、2人はソファーに案内され座った。宮本は2人分の紅茶を用意した。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

と、黒井川は言った。仙岩寺もどうもとお礼を言った。

黒井川と宮本の会話で、仙岩寺はヒントを得ようとしていたのだ。


「何やら、この撮影所は来月、閉鎖らしいですね」

「黒井川さん、お耳が早い。流石、刑事だ」

「2代目が、出来もしないのに多角経営に手を出して、この撮影所を閉鎖すると言い出したのは、半年前です。私は40年ここで育ちました。2代目の好き勝手で閉鎖されちゃ、誰もが反発しますよ」

仙岩寺は紅茶をすすり、

「助監督とかなりぶつかっていたみたいですね」

「土屋君のことですか?」

「はい」

続けて、黒井川が話す。

「山下さんの敵は多かったみたいですね」

「そりゃそうだよ。60年続いた名宝キネマをあのガキ1人のせいで潰されるのはたまったもんじゃない」

と、宮本は話す。


「コレを見て下さい」

と、アルバムを宮本は開いた。

「これは、私のデビュー作の「清水次郎長物語」の1シーンなんだ」

「え、これが先生ですか?お若い。カッコいい写真ですね」

「初舞台は16歳でした。それから40年この仕事をしています。あのガキ1人死んだぐらいで閉鎖するのは堪りませんからね」


仙岩寺は、紅茶を飲みながら、

「先生は、始めっから2代目を殺す気持ちだったような気がしてなりません」

と、言った。

「出来るならね、殺したかった。だが、事故で死んで、こっちとしたは、願ったり叶ったり。探偵さん、深読みし過ぎですよ。私は逃げも隠れもしない。お縄を頂戴します」


「先生、今夜のリハーサルですが、いくつか確認したいので、現場までご苦労願いませんか?」

「もちろん、ご協力します」


3人は事故現場に向かった。鑑識は終わり、誰も居なかった。

仙岩寺は様子を眺めていた。

日本刀が用意されていた。

「私が山下さんの役をしますので、どうぞ刀を持って、セットに来て下さい」

「……分かりました」

宮本も刀を手にした。今回の日本刀は全てイミテーションだ。


「当時の殺陣なんですが、監督に聞きました。こう山下さんは斬り掛かったのですよね」

と、刀を振り下ろし、宮本は刀ではねた。

「それから、こっちへ山下さんは動いて、あなたが刀を振り下ろし、事故が起きた。間違い無いですね?」

「はい。間違いないです」

「しかし、疑問が」

「何ですか?」


「亡くなった山下さんの最後の台詞覚えています?」

「いや」

「皆んな、証言しています。「すまん、すまん」。これって、どういう意味ですかね?悪役だったから台詞を言ったと思いますが、台詞が軽すぎる。で、その後ばっさり。右に避けて、「すまん、すまん」なら分かりますが、斬られるまえに言葉を発しています。あたかも、誰かに右に動くように指示されて、それを思い出したかのように、謝ったのではないかと」

「それが、重要ですか?」

「はい。普通、殺陣は誰が付けるんですか?」

「殺陣師が付けたり、私が付ける時もある」

「今夜の殺陣は誰が?」

「私です」

「そうですか。ありがとうございました」

「いいえ」


黒井川と仙岩寺は小道具室に向かった。

「すいません。警察の者ですが、あなたが小道具の立脇さん?」

「はい、そうですが」

「ちょっと、刀の保管場所へ案内してもらおませんか?」

「……どうぞ、こちらへ」


日本刀が保管されている引き出しを案内した。

引き出しには、油性ペンで、

「替身」「本身」と書いてあった。

「何だ、立脇さん。イミテーションと本物の日本刀の区別が付いてるじゃない」


「だから、事故じゃ無いんですか?」

「この道40年の役者さんが、イミテーションと本物間違えるかね?」

と、黒井川は行ったが、立脇は、

「難しいと思います」


仙岩寺は頭を悩ませていた。本当に事故なのだろうか?と。

2人はスタッフ部屋に向かった。


「刑事さん、宮本先生どうなるんですか?」

と、監督の笹田は尋ねた。

「業務上過失致死罪は免れないね」

「あんな、ヤツが死んでも、俺らこの名宝キネマを守る義務があるんだ。なあ皆んな」

と、笹田は言った。

その様子を見ていた、土屋助監督は黒井川に

「ちょっと、話しがあります」

「何だい?」

と、黒井川は土屋と一緒に部屋を出た。

残った、仙岩寺は皆んなに聞いた。

「誰か、セットの観音様が無かったんだけど、誰か外した?大道具の方いる?」

「私ですが」

「観音様、外した?」

「いいえ、セットしましたよ」

「でも、事故現場には無かったよ。誰か動かした人いる?」

周りで観音様を外した人間は居なかった。誰かがウソをついている。


「俺がやりました」

「何を?」

「替身と本身を取替えました」

「え?どういうこと?イミテーションと本物を変えたの?」

「はい」

「何故?」

「アイツを殺したくて」

「アイツ……あ、山下さんね」

「そうです。親父もこの名宝キネマで働いていました。二十年もこの仕事してます。2代目の勝手で潰されたら、皆んなどうやって生活するんですか?」

「分かったよ。ちょっと、後で署に来てもらうからね」

「はい」


この事は宮川警視に話した。

「な、何ですって?さ、殺人じゃないか?」

「だから、もっと調べてから記者会見してくださいと言ったじゃない」

「てことは、助監督が犯人か?」

「いや、まだ何も。誰かがウソを付いています」

「も、もう、記者会見しちまった」

「まだ、記者が残っているいるうちに、訂正してください」

「か、川崎!」

「はっ」

「記者会見して来い。お前1人で。事故じゃ無い可能性を伝えてこい」

「警視もお願いしますよ」

「いや、お前1人でやれ」


哀れ、川崎は二度目の会見を開いた。

「愛知県警の川崎です。先ほどの会見は忘れて頂き、まだ、事故ではない可能性があります。現在捜査中でして。また、朝、記者会見を開きます。それでは」

記者やレポーターは川崎に罵声を浴びせた。


「仙岩寺さん、宮本大次郎には、動機もある。チャンスもある。だけど、証拠が」

「そうですねぇ。証拠がねえ」


2人は喫煙室でタバコを吸っていた。

吸い終わり、また現場に戻った。

すると、スタッフの1人が観音様らしき像を運んでいた。

「スタッフさん、それ何?」

と、仙岩寺が尋ねる。

「あ、刑事さんだよね?この観音様、セットしたは良いけど、馬鹿な弟子が観音様の頭折っちゃってね。急きょ、倉庫にあった古い観音様セットしたんだよ。でさ、セットしたのに、セット裏に誰かが置いてやがんの」

「そうなんだ」

「先生は逮捕されるの?」

「一応ね。事故なら書類送検で済むけど」

「絶対に事故だね」 

「で、その宮本さんはセットにこだわりあるの?」

「あぁ〜、もちろん。美術にはうるさいね」


仙岩寺は黒井川に耳打ちした。

「やっぱりそうか?」

「ねぇ、スタッフさん。ここの時代劇のテープはどこにある?」

「ライブラリーに行けば?」

「そこはどこにある?」

「この撮影所の2階だよ」

「ありがとう」


2人は急いで、セットされた観音様を調べた。

そして、ニヤリと2人はした。

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