第2話仙岩寺探偵と黒井川警部

黒井川警部ら、警察は現場検証に当たっていた。

そこを1人の中年で蝶ネクタイをした男が近寄ってきた。

「君、何があったの?」

「すいません。一般の方は現場に近づけません」と、立哨する警官に言われた。

すると、その様子を黒井川警部が見ていた。

「あ、仙岩寺さん」

「何があったの?」

「私も到着したばかりで。どうぞ、お入り下さい。仙岩寺さんのお知恵を拝借したいのです」

と、仙岩寺と黒井川は名宝キネマの事故現場に向かった。

1人の若い刑事が近付いてきた。川崎巡査長だった。

「あっ、黒井川警部。こちらです。え、仙岩寺さんお久しぶりです」

「久し振りだね。飛騨高山の事件以来だね」

「まぁ、あれは悲しい事件でしたね」

「川崎、事件の内容を」


川崎巡査長は、手帳を見ながら、

「今夜、19時に時代劇のリハーサルがあり、看板俳優の宮本大次郎さんが振り下ろした日本刀が2代目社長の山下大介さんの首すじに当たり頸動脈から血が噴き出し、失血死しました。リハーサル中なので、目撃者多数で、まぁいわゆる事故ですね」

黒井川はセットの様子を眺めていた。

「その、分からないんだけど、こう言う撮影で、本物の日本刀を使うの?」

「仙岩寺さん、良い質問ですね」

「普段は危険なので、イミテーションの日本刀を使用するようですが、今夜はたまたま、準備した日本刀が本物だったらしいのです」

「じゃ、小道具係の過失だよね」

と、黒井川が言うと、

「たまたま、今夜は宮本さんが準備したみたいです」


仙岩寺はセットを眺めていた。

「ねぇねぇ、ほこらはあるのに、観音様いないよ」

「……それを私に言われても」

「これじゃ、気になって、視聴者は映画に集中出来ないよ。ねぇ?黒井川さん」

「そうですね」


「とりあえず、宮本さんの事情聴取をお願い致します」

と、川崎は言った。

「黒井川君!」

「あ、宮川警視」

「これは、リハーサル中の事故だよ。あ、仙岩寺先生も。君らの出番は無さそうだよ。今から、宮本先生の楽屋に行くから来るかい?私が事情聴取のイロハを教えてやるよ。仙岩寺さんもご一緒に」

3人は、宮本の楽屋へ向かった。


「川崎君。ちょっと」

「はい、何でしょうか?」

「何で、宮川警視がいるの」

「22時から記者会見があって、それに出る気満々なんですよ。そう言うのお好きな人ですから」

「まだ、事故とは限らないじゃない」

「目撃者も多数ですし、事故ですよ!これは」

川崎は宮川の肩を持った。


楽屋。

「私がしくじったんだ。刀を間違えて用意してしまった。罪は認めます」

「確か、亡くなった山下さんは殺陣の段取りを間違えたそうですね」

「そうです。避けられなかったんだ」

「そうなると、私ども警察としましては記者会見では事故と報告致しますんで」

「宜しくお願い致します」

マネージャーの生田も、

「宮本大次郎を宜しくお願い致します」

「分かりました。それでは」

宮川が部屋を出た。


黒井川と仙岩寺は、楽屋に残り宮本に質問した。

「今夜は飛んだ事で」

「ご苦労おかけします」

「で、本物の刀とイミテーションの刀は区別がつかないモノですか?」

「刑事さん」

「黒井川で結構です」

「黒井川さん、それは他の刑事さんにも言ったんだが、最近のイミテーションは本物そっくりで区別が難しいのです」 

「分かりました。後で確認します。ありがうございました」


すると、仙岩寺が宮本に名刺を渡した。

「探偵の仙岩寺と申します。あの、1つご質問が」

「何でしょうか?」

「祠の中が空白だったんです。観音様の姿が無かったんですが、どういう理由ですか?」

「観音様?私は知らない。それが、事故と関係するのでしょうか?」

「……いえいえ、気になった事は調べないと気が済まない気性でして」

「私は罪を認めている。お縄を頂戴します。事故なんだ。分かってもらえないでしょうか?」

「充分、承知しています。お力を落とさずに」

「ありがとう」

2人は楽屋を出た。そして、小道具室に向かった。

途中、宮川警視と川崎巡査長とすれ違った。

「今から、記者会見だ。君もどうだい?テレビに映るチャンスだよ」

「私は結構です」

「じゃあ、私が何とかしよう。記者会見の手本を見せてやる」 

仙岩寺と黒井川は白けていた。


22時、記者会見。

「えぇ〜、川崎と申します。今回の事件の経緯を愛知県警捜査一課宮川警視から皆様にご報告致します」

と、川崎が言うとフラッシュがパシャパシャと光る。

「えぇ〜、愛知県警捜査一課の宮川です。今回の悲しい事故は、本日午後19時頃……」


悲しいかな、宮川警視は事故として記者会見を始めてしまった。


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