殺しのリハーサル
羽弦トリス
第1話犯行
「ここで、会ったが運の尽き。
悪人は、手下の男共に合図した。
10人の手下は刀を抜く!
佐々木主水之助も、刀を抜く。
男が斬り掛かった!佐々木は身を反らし、男の腹を斬る。男は倒れた。
次から次と手下が斬り掛かったが全員、佐々木に斬られてしまった。
残った、男も佐々木に斬り掛かったが、簡単に刀を手から叩き落とされて、男は逃げる。
そして、
「次こそはお前の息の音を止めてやる!覚えてやがれっ!」
佐々木がにじり寄ると、男は走って逃げて行った。
「はいっ!カット〜!」
監督の笹田はメガホンを口に当て、そう叫んだ。
佐々木主水之助役の俳優は、名古屋では有名な時代劇スターの、宮本大次郎と言った。
刀を鞘に収めると、パイプ椅子に座り、次のシーンの台本を確認していた。
撮影が終わると、名宝キネマのスタッフは次の撮影の準備に取り掛かる。
宮本はある部屋に向かった。
社長室だった。
社長室には、2代目撮影所社長の山下大介が椅子に座りタバコを吸いながら書類を読んでいた。
コンコンコン
宮本は社長室の扉をノックした。
「誰だ?」
「宮本だが」
「どうぞ」
宮本は社長室に入り、山下と会話した。
「宮本さん、読ませてもらいましたよ。答えはNOだ。この撮影所は閉鎖する。今さら嘆願書もってこられてもね。何?従業員の総意だと。話しにならないね」
「2代目、これは撮影所の皆んなの熱意なんだ。私も頭を下げる。考え直してくれないか?」
「……ダメだ。ここは閉鎖して、ショッピングモールにする計画になっている。言えるのはこれだけだ。ま、佐々木主水之助シリーズの最終回は楽しみにしてるよ。話はこれまでだ」
宮本は下げた頭を上げて、怒りを押さえていた。
「あ、2代目、今回の殺陣だが、私が1回刀を左に振り下ろす。その時に右に避けてもらいたい。殺陣の山場だ。これは映えるな」
「え?左に振り下ろして、右?」
「2代目、最終回は悪役の親玉を演じる事が夢なんだろ?今夜、リハーサルをやろう」
山下はタバコを灰皿に押して消しながら、
「え?今夜?」
「撮影は明日だ。セットも今日組み上がった。やろう、2代目。スタッフには私から連絡する」
「分かった」
「じゃ、19時スタートで」
宮本は社長室を出た。
山下は、ニヤニヤしながら書類を眺めていた。
この男は、先代の時は時代劇の撮影を良く見学していたので、監督の笹田に無理やり最終回の悪役を申し出たのだ。
役者経験は多少あった。だが、時代劇好きではない。
宮本は真っすぐ、小道具室へ向かった。
小道具室には、今年70歳になる、
扉を開いた。
「あ、先生。何のご用事で」
「ちょっと、刀をね」
「先生、直々に?」
「うん、今日の夜、突然2代目がリハーサルやるってうるさくてね、弟子帰しちゃったから」
「迷惑な2代目ですね。じゃ、私が取ってきます」
「イヤ、良いんだ。英さんは、自分の仕事していて」
「あ、ありがとうございます」
宮本は刀が保管されている、引き出しの前に立った。
上段から、引き出して行く。三段目の引き出しの中の刀を手にした。
夜19時。
リハーサルが始まった。
2代目の山下がやってきた。周りは着物姿だが、リハーサルなので2代目はスラックスにYシャツ姿でベルトに、刀を滑り込ませた。
「なぁ、監督。途中で1回佐々木主水之助の肩を斬るってのは、良いアイデアだろ?だって、無傷ってのはリアリティーに欠けるだろ?」
監督の笹田は、
「そ、それはありですが。先生、大丈夫でしょうか?」
「私は構わんぞ!」
「宮本大先生のお許しが出だぞ」
「じゃ、1回流してやってみましょうか?よ〜いスタート」
山下が台詞を言う。
「佐々木主水之助、飛んで火にいる夏の虫とはこの事だ!野郎ども掛かれっ!」
男どもが、バッサバッサ斬られていく。そこで、2代目が、
「死ね!佐々木!」
と、刀を宮本の左肩に振り下ろす。
ガタッ!
イミテーションの刀とは言え、鉄の棒だ。宮本は苦悶の表情をしたが、殺陣を続ける。
残るは、2代目のみ。
宮本は刀を振り上げると待っていた。
2代目は、
「すまん、すまん」
と、言ってから右に動いた。
宮本は刀を振り下ろした。
刃先は首元から胸にかけて、2代目を切り裂いた。
2代目は血吹雪を上げて倒れ込み、死亡した。
現場は騒然となった。
返り血を浴びた、宮本はじっと2代目が死にゆく姿を眺めた。
これが、殺害までの経緯である。
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