第2章:片思い編〜恋の行方と悪魔仲間〜
第7話 魅了
この1週間、色々なことがあった。
エリカと俺の力の覚醒、前世の記憶、敵の急襲⋯⋯
俺はというと、エリカを護衛するために引き続きエリカの家に置いてもらっている。
覚醒したエリカの力は確かに強力だが、攻撃手段を持たないということが今回はっきりしたからだ。
俺はバイトとエリカの家の往復の毎日で、一人暮らしをしていた家には荷物を取りに行く程度だ。
そして今は、買い出しを済ませてエリカの家に帰る所だ。
「ただいま」
玄関から上がり、冷蔵庫に買ってきた食材をしまう。
そして居間に行くと⋯⋯
「なんでお前まで寛いでるんだよ」
そこにはテレビに向かってゲームをしているエリカとサフランがいた。
先日、サフランは突如として俺たちの前に現れ、攻撃を仕掛けてきた。
俺が転生するたびに追いかけ回して、話ができる生き物になるのをずっと待っていたとか壮大なことを言っていた。
結果的にはサフランは弱すぎて全く俺たちの敵ではなかった。
もしくは俺とエリカのタッグが強すぎたんだ。
洞窟で俺の攻撃を受けたサフランはしばらく動けずにいた。
それをエリカが手当し、行き場のないこいつをしばらくここに住まわせることになったのだった。
「ハッハッハ! 買い出しご苦労であった。ファンツよ! 紅茶は私の指定の銘柄を見つけられたんだろうな?」
サフランは尊大な態度を崩さなかった。
「はぁ⋯⋯」
思わずため息が出る。
頭痛もするような気が⋯⋯
「お前も居候なんだから働けよ。元気になったなら帰れよ。いつまでここにいるつもりなんだ?」
「私は働かない。私は気が遠くなるような時間を貴様に費やして来たんだ。今度は貴様が私に尽くすべきだ。あと、当分はここに住み着くことにした。理由は大きく三つだ。一つ、いつか貴様を倒すため。二つ、エリカの護衛のため。三つ、どさくさに紛れてエリカを落として自分の配下に加えるためだ」
「はぁ? お前ふざけんなよ!」
もうどこから突っ込んでいいのかわからない。
「まぁいいじゃない。この人意外と話が合うし、なんか便利グッズみたいなのいっぱい出してくるし面白いから。それに私より世間のことを知ってるみたい」
エリカはゲームの敵を倒しながら言った。
エリカの操作するキャラクターが剣を振るたびに、そのキャラの勇ましい声が聞こえてくる。
「人じゃねぇし⋯⋯こいつに落とすとか言われてるんだぞ? まさか、もう半分落ちてるんじゃないだろうな?」
エリカが意外にもサフランを好意的に見ていることに俺は焦りを覚える。
「大丈夫よ。何か色々されたけど全然ときめかないから」
「色々って何だよ。お前何したんだよ!」
サフランの胸ぐらをつかんで問い詰める。
「ハハッ! エリカは手強そうだ。私の魅了の影響を受けないばかりか、魔道具もまるで効かない」
そう言うとサフランはポケットから色々な魔道具を出してくる。
そのレンズ越しに見た相手に惚れるという眼鏡や、その香りをかぐと近くにいる異性に好意を抱くお香、異性にキスしたくなる口紅などなど⋯⋯
それに悪魔の魅了は、瞳の奥を見つめただけでその相手を落とすことができるんだが⋯⋯
これだけやって効かないなら安心して良いのだろうか⋯⋯
「これをここに置くのか?」
「うん。それで扉が開くはず」
サフランとエリカは楽しそうに話をしている。
「さっきから何のゲームをやってるんだ?」
俺は二人の間に立ってテレビ画面を覗き込む。
「ゾルラの伝説。私は今のところ時のハープが一番好きだわ。特にボス戦でゴロンゴロフが⋯⋯」
「おい待て、ネタバレはよしたまえ。私はまだボス戦をクリアしてないんだぞ!」
「あんたがまだ心の準備ができないとか言ってさっさとやらないからでしょ? まぁ、終わらせたくない気持ちはわかるけど。いつまでもゴロンゴロフはピアノ弾きながらあんたのこと待ってんだから、早く倒しに行きなさいよ」
⋯⋯エリカとサフランは想像以上に気が合うようだ。
「ここはどうしたらいいのだろうか?」
「そこは⋯⋯床を見て、王家の紋章があるでしょ。ここでハープを弾くのよ」
「それは私も試した」
「子守歌の方を弾くのよ」
二人の仲の良さに嫉妬する気持ちもあるが、それよりも俺はエリカが楽しそうに笑っていることが嬉しかった。
エリカは、悪魔像の世話から解放されて普通の女の子の暮らしを満喫し始めている。
休日に1日中ゲームをするなんて俺にとっての日常をエリカは経験したことが無かったのだ。
これからエリカは高卒認定試験を受けたり、バイトを始めたりしながらやりたいことを探すらしい。
彼女代行を始める必要もなくなった。
「ディナーの後は、雷撃の魚人の続きを見ようではないか!」
「そうね。こんなに面白い作品がある時代に生まれて来れて本当に良かったわ。ねぇ、レンも見るでしょ?」
エリカは振り返り、俺の腕を掴んだ。
そのまぶしい笑顔にドキッとする。
この笑顔が見られるなら俺は何だってできる。
ずっと近くで守りたい、そう思った。
その日の夜
三人でアニメを見た後、俺たちは解散した。
俺は風呂が終わり、与えられた自分の部屋に帰るところだ。
暗い廊下に襖から光が漏れている。
エリカの部屋だ。
襖が10センチ位開いている。
「何? 覗き見? 変態なの?」
「うわっ!」
見るとエリカが立っていた。
手にはマグカップ。
ココアか何かを淹れに行っていたらしい。
エリカはこちらを怪訝そうな顔で見ている。
エリカも風呂上がりなのか、服装は完全にオフモードだ。
黒色のショートパンツに白色の薄手のTシャツ。
白くて柔らかそうな太ももが丸見えで、胸元も無防備で⋯⋯腰など身体のラインが服の上からも分かる。
心臓に悪い。
「ちょっと気になっただけで、中は覗いてないからな」
「ふーん。でも、そういえばあんた私の追っかけしてたんだっけ? 信用できないわね」
エリカは俺に近づいてくる。
「いや⋯⋯それはサフランの誤解だ」
俺は弁明しようとするが、実際は誤解ではないので汗が出る。
「ふーん。まぁ良いけど」
エリカは襖に手をかけ、中に入ろうとするも途中で動きが止まり、思い出したように俺を振り返った。
「ねぇ、あんた勉強できるの? 私より一つ年上だったわよね?」
「あぁ、受験もしたし、今も大学で勉強してるからそれなりにはできると思うが⋯⋯」
突然なんなんだ?
「⋯⋯ねぇ先輩? 勉強教えて?」
エリカは上目遣いで俺を見つめ、甘えるように言った。
可愛いすぎる。
俺にはもちろん断る理由はない。
「あぁ、どこがわからないんだ?」
俺が尋ねると、エリカは俺の手を引いて部屋の中に招いた。
エリカの部屋は一言で言うと大人っぽかった。
これぐらいの年の女の子の部屋ってもっと全面ピンクだったり、ぬいぐるみとかかわいいものが飾ってあったりするもんだと思っていた。
ふと目に入るのはベッド。
清潔そうな白色のシーツ。
柔らかそうな薄い茶色の毛布。
インテリアショップなんかで展示されてそうな組み合わせだ。
エリカはいつもここで寝ているのか⋯⋯
何見てんの?変態!
なんて声が聞こえて来そうだが、エリカは集中していた。
「うーん」
問題集を解きながら唸っている。
エリカは高校には通えなかったので、まずは夏か秋の高卒認定試験を受けるそうだ。
悪魔像の世話の合間に自分なりに教材で勉強していたようだが、試験を受けるために日中何時間もここを離れるわけにも行かず、断念していた状況だ。
「悪かったな。俺のせいで学校通えなくて⋯⋯」
俺の前世が昔にエリカの先祖と交わした契約のせいで、エリカは普通の女子高生として生活できなかったんだ。
そう思うと罪悪感で胸が潰れそうだ。
「本当に、どう責任取ってくれんのよ? 私の青春返してよ! まぁ、原因はあんたの前世で、あんた自身ではないんだけどね」
エリカが前世と俺は別物だと言ってくれたのはありがたかった。
「それにしても、どういう流れであんな契約内容になったのかは知りたいわね。サフランだってあそこまでは手がかからないのに。王様みたいな悪魔だったのかしら。何か思い出せないの?」
エリカの気持ちはごもっともだ。
しかし、俺は自分に流れ込んできた前世の記憶を処理するのに手こずっていた。
「思い出したいのは山々だが、記憶の量が膨大でなかなか処理しきれない。人間の俺の脳では記憶出来ない量なんだろうな。無理に思い出そうとすると本来の自分の記憶が飛びそうになる。思い出したら必ず伝えるからもう少し待ってくれ」
俺はエリカにそう伝えた。
エリカの言う通り、悪魔ストロファンツスは人に尽くされるのが好きだったんだろうか⋯⋯
俺が考えたところで今は何も分からなかった。
「そう。よろしく。あと⋯⋯ちゃんとこの前のお礼言えてなかった。ありがとね」
「俺、なにかお礼を言われるようなことをしたか?」
いつのことだろうか?
心当たりがないんだが⋯⋯
「サフランが来た時。すぐに後ろに庇ってくれたの、ちょっとかっこ良かった」
エリカは少し照れくさそうに言った。
まずい。
可愛すぎる。
「あぁ。こちらこそ、結界で護ってくれてありがとうな。じゃあそろそろお休み。無理せずにな」
俺は平静を装いながら、エリカの部屋を出た。
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