第4話 俺の力

 夜10時。

 俺は神社の近くでエリカを待っていた。

 いや、ここは神社ではないんだったか。

 とにかく今からエリカとデートをするためにここにいる。


 前の通りは誰も歩いていない。

 近くに民家もないし当然だろう。

 こんな所で立ち止まっていたらまるで不審者だ。


 こんな深夜から会うことになったのは、エリカがこの時間を指定してきたからだ。


 エリカは、お祖父さんに見つからないようにしたいからと、別の待ち合わせ場所を提案してきたが、こんな深夜に待ち合わせ場所まで一人で歩かせるのも危ないと思ったので、ここで待ち合わせすることにした。


 まだ初対面だし、メッセージのやり取りでも良いと言ってみたものの、練習にならないから会うとのことだった。


 こんな時間から女性に会うなんて初めてだ。

 エリカはどんな服装で現れるのだろうか。

 俺たちはどこに行けばいいのか。

 俺がリードした方が良いのだろうか。


 それに、お金を払って会うなんて、何だかすごく悪いことをしている気分だ。


 でも、ここで俺がデートしなかったらエリカは別の男とデートしてしまうんだ。

 なら俺が予約した方がエリカは安全に違いない。

 そう自分を納得させるのだった。

 


 その後、待ち合わせ時間から1時間近く待ったがエリカは来なかった。


 弄ばれてたのだろうか。

 連絡ぐらいくれたらいいのに。


 スマホを取り出し、確認する。

 連絡先はさっき交換した。

 ここに到着したってことも送信した。

 既読は⋯⋯ついていない。


 もう寝てしまったんだろうか。

 俺はあと少しだけ待って来なかったら帰る旨を連絡した。


 送信ボタンを押したのと同時くらいに、後ろから強い光を感じる。

 振り向いて見上げると⋯⋯エリカの家の方だ。


 まるでUFOか隕石か爆弾でも落ちたんじゃないか?

 光はまだ続いている。

 急いで階段を駆け上がると⋯⋯


 

 エリカが倒れている。

 そして、エリカの身体をお祖父さんが抱き起こしている。


 強い光の正体はエリカだ。

 エリカの身体が⋯⋯光っている?


 「大丈夫ですか?」

 そう言おうと近づいた時に気がついた。


 エリカの周りにおびただしい数の化け物が群がっている。


 妖怪か?

 角が生えたものや、目が多い猫のようなもの、黒いヘビのように空中をニョロニョロ動いているものなど、見たことのない生き物が大量に湧いている⋯⋯


 呆気に取られていると、お祖父さんが空中に手をかざす。


「ハアッ!」


 お祖父さんは自分とエリカの周りに結界のようなものを張ったみたいだ。

 結界は白く輝いている。


 でも、お祖父さんの結界は押され気味だ。

 妖怪の爪が結界にめり込み、お祖父さんの顔を掠めて、切り傷が出来る。


「危ない!」


 俺が叫ぶと妖怪たちは一斉にこちらを振り返った。


 まずい。見つかった。殺される。

 だがエリカもお祖父さんもこのままでは危ない。


「おらぁ!」


 俺はカバンを振り回しながら決死の覚悟で、二人の方に走る。


 すると、不思議なことが起こった。


 妖怪が俺に道を空けている。

 知性がありそうな妖怪は俺に触れるのを避けるように離れていく。

 知性のなさそうな妖怪は俺の身体に突進してくるも、触れる前に塵になって消えていった。


 「なんだこれは」


 よく見ると俺の身体も薄っすらと光っている。

 何か湯気のような⋯⋯

 暗い色のオーラのようなものが出ている。


 このオーラに触れるのを妖怪たちは嫌がっているようだ。


 よく分からないが、とにかくまずはエリカだ。


「大丈夫ですか?」


 エリカは意識がなく、手足は力なく垂れている。

 身体は未だにまぶしく光り続けている。


 お祖父さんの方は⋯⋯

 切り傷は以外は、他に大きな怪我はなさそうだ。


「この度は、助けて頂き感謝いたします。あなたは霊能力者でしたか。お陰様で妖怪どもは帰っていきました」


 お祖父さんは言った。


 振り向くとおびただしい数の妖怪が、音もなく消えていた。

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