第6話 コンジッチとお話し

 「人間、長生きはするもんだなぁ」

 たかだか、65年生きた人間の台詞ではない。65年を長いと見るか?と言う話で有る。まぁ、65歳は高齢者では有るが、長生きと褒められる事は先ず無い。変な言い方になるが、年寄りに成り立て、ホヤホヤと湯気が立つかは、別の話?コンジッチこと、根地一也こんじかずやは、割と早い時間から、私と時雨君の“愛の揺籠”を訪れていた。時雨君は、本日、出勤日。只今の時刻は朝の9時、主人のいない家に他所の人を、しかも男を、女同居人が勝手に家に上げてしまうことは、近所の目もある田舎のことで、憚られるところではあるのだが。コンジッチは、ご近所さんで時雨君の幼馴染み、軽い気持ちで居間に通してお茶と雑談。

 「委員長、あいつは、今日も会社かい?」

 「昨日迄は、家にいたよ、休みで」

 「そっか、まぁ、奴が居なくても問題無いけどね」

 「狙って来てる?」

 「無い、無い、それは無いは〜ぁ」

 「何か、失礼じゃない、即否定は、私が自惚れてるみたいじゃない」

 「いやいや、俺が幼馴染の女にも見境なく手を出す色事師みたいなこと言う、委員長がおかしいって」

 「そこまでは、言ってないと思うけど」「それより、幼馴染の女って何よ!」

 「違ったか?」

 「違わないけど、言い方、あるでしょ、もっと気遣いのある言い方!」

 「えぇ、面倒くさい、彼女?恋人?愛人?内縁の妻?」

 「それよ!内縁の妻、つまり奥さん!」 

 「委員長、戸籍ないんでしょ?」

 「当たり前、もう死んでるもの、病気にも罹らないし、老後の心配もないわ、一切合切、 面倒な手続き関係は無用ね!」

 「食事と排泄はどうなってるの?」

 「凡そ、女性に聞く話じゃないわね」「秘密よ!でも、必要じゃないって事は確かね、あっと、おまけに生理もこないよ、私んとこには」

 「凡そ、女性の答えじゃねーぞ、それ!」 

 「あらっ、失礼したわ」

 「それで、そのもう死んでる死神さんが、俺らみたいな者と、一緒にいて問題ねぇの?」

 「ん〜私ら死神も、一々を深淵の方々に聞けないし、聞く方法もないのよ」「只、私たち死神は、あなた達より、あの方々の管理?管理と言って良いかだけど?兎に角、深淵の方々の望まない行動は、一切取れ無いわ」「それは、教えられたとかじゃなく、これも、語弊が有るんだけど、わかりやすく言えばコントロールされている状態?無意識に導かれているの」「だから、私はこうなって、一切の迷いは無くなったの」「全てを、理解はでき無いし、そう言う、興味も無くなっちゃったわ」「只、嬉しい、楽しい、悲しい、悔しい、そんな、人並みの感情は有るの」 

 「気持ちいいも、有るのか?」

 「あんた!本当に馬鹿!あんたの思うことには、答えてあげ無い!」「勿論、死神が扱うのは、死んで数日後の魂だから、生きていた時の感覚は持ったままなの」「だから、それに触れることが出来る私たちにもその感覚は必要なのよ」

 「それだよ、俺が聞きたかったのは」 

 「本当に?」

 「嘘です、御免なさい」

 「本当に、アンタって馬鹿、変わん無いのね馬鹿は」

 「委員長、酷すぎね、馬鹿!馬鹿って、言い過ぎだろ!」

 「そうかしら?でもね、50年も変わらず馬鹿って、逆に褒め言葉になんない?」

 「なるかって!んなモン!」「で、肝心の事、聞けて無いんだけど?」

 「肝心て、何よ!」

 「俺達が、委員長と一緒にいて、俺達に影響ないのかってこと」

 「へっ、影響て、何?」

 「だから、“牡丹燈籠”的な?」

 「何それ〜、私、わかん無い〜」

 「若い振りしやがって、女の子の一番大切な物を上げて、クックックッってしてた癖に」 

 「馬鹿じゃない!」

 「だから、怪談“牡丹燈籠”!知ら無いとは言わせ無い!」 

 「あ〜ぁ、セック○、する度に男がやつれて行く、絶倫女のお話ね!」

 「それかよ、知ってるくせに、委員長どうなの?時雨は窶れて無い?」 

 「あんた、本当!馬鹿!そんなこと、ある訳無いでしょ!」「する度に、若返ってるわよ!恐いぐらい元気よ!」

 「羨ましい、元気なんだ?」 

 「何よ、悪いの、私と時雨君がLove Loveで!イチャコラしちゃいけないの?」

 「また、イチャコラとか、今どきの言葉使って、渚で、シンドバッドと踊ってた癖に」 

 「何よ、悪いって言うの!見た目に合わせた言葉遣いにしてんじゃ無い!」

 「俺とか時雨には通用しても、ほかじゃ使わん方が良いぜ」

 「余計な、お世話よ!」

 「なぁ、言える範囲でいいから、教えてよ、死んだらどうなっちゃうのか」

 「正直言って、何処が魂の休憩所かは分かるけど、その先の事は全然ね」

 「知りたいと、思わないの?」

 「先刻も言ったけど、死んじゃったから、その先に興味ないのよね」

 「ある意味、深淵の方々の一部分に成っちゃてるのか?」

 「そうだね、当たり前の事に興味がないのと同じね」

 「でも、それは知っているとは言えないね」 

 「分かるけど、言いたい事は、でも、知る必要のない事は知らないで良いのよ」「コンジッチが死んだら、死神さんが案内してくれるから」

 「そっか、でも、俺、人の言うこと聞けない体質だから」

 「そんな体質なんて無いよ、あんた何時も、ふらふらしてたから心配かも?」

 「委員長が、連れてっちゃあくれないの?」

 「私、決めたんだ、時雨君と一緒に向こうに渡るって、あんたと時雨君どっちが先か微妙じゃ無い」

 「あっぁ〜、時雨優先ね、分かるわ〜、今になって漸く奴の良さに気づいたのか!」「テクニシャンなの?」

 「も〜っ、馬鹿なんだから、照れ隠しでも、もっと気の利いた事言えないの!」 「悪かったって、恥ずかしいだろ、あいつを褒めるなんてさ」

 「まぁ、あんたの言う通り、今更よね〜、あの子が、いい子なのは分かっていたよ」「でも、恋愛対象にはならなかったな」

 「俺達はガキでさ、委員長は、一寸、大人びていたからなぁ」

 「あんたは、今でも痛いガキじゃん!」 

 「酷いよね、委員長当たり強すぎだって!」

 「ふっふふ、私、あの頃、自分の可能性にときめいてたから、周りが見えていなかった」「完璧、美少女だったからね」「あ〜ぁ、もっと上手く出来ると思っていたんだけどね」

 「やり直したいとか、思わんの?」

 「どうかなぁ、今、時雨君といい感じで、面白いから」

 「なんだか、時雨が可哀想になって来た」

 「うっふふふっ、そんな事も、有るかもね、ふふふっん」

 「おぉっ、桑原くわばら桑原くわばら!」

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