第2話 死神さん!お久しぶり?

 今日が、取り敢えず、会社に出社する最終日だ。結局、俺は、有給休暇の全処理が叶わなかった。根地の奴は、最後の月のほとんどを有給休暇の消化に当てて、出社しなかった。

 あの、山で拾った女は、今、現在も、俺の家に居る!本当なら、根地の奴に相談?いや、奴に相談はあり得ない!自慢だ、自慢したかったのだ!女房に逃げられ、娘と暮らす、あの男に、自慢したかったのだ。他には、ちょっと、言えないかな?良い歳こいて、山で不思議ちゃんを拾った等とは!結局、彼女は身元不明!普段の俺の性格からは、先ずは、考えられない!身元不明人との同居なんて!絶対にしない筈だし、身元を確認するだろう?普通。するよな?ところが、彼女と話すとだ、 言いくるめられる訳でもなく、二言、三言で納得してしまうのだ。後になって、小首を傾げることが多い。不思議とは思っても彼女がいない生活は、早くも、考えられなくなっていた。馬の図体に蚤の心臓、と言われる俺には考えられなかったことだ。分かっ事はただ一つ彼女の名前“神崎薫かんざきかおる”だけだった。それすら、便宜上の名乗りかもしれない。でも、これは、絶対に本名だと確信があった。不思議なことに。

 終業時間になり、改めて、今日が最後になる同僚たちに挨拶をして帰宅となった。根地の家は、歩いて、10分と掛からない距離だ。

 誘ったら、二つ返事で来ると言う、相変わらずに軽い奴だ。薫のことは、敢えて、秘密にした。サプライズって訳だ。薫には、今朝、出掛けに今晩、根地を呼ぶことを話した。嫌な顔は、しなかったと思う。

 「今晩は!時雨、来てやったぞ」 「何を、偉そうにあのヤロー」玄関まで迎えに行って。「一寸、驚くことがあるぞ!」「実はな、お袋が亡くなって半年余り、同居人が居るんだ!」「名前は、神崎薫かんざきかおるって言うんだ」 「エッ、委員長?まさか、本人?」 「何言ってるんだ、委員長って?」 「おいおい、恍けるなよ、委員長だぜ神崎薫は、俺達のクラスの。ほら、中3の時の」 「じゃあ、ないぜ、俺たちよりずっと若い」「取り敢えず、会ってみてくれ!」 

 俺は、根地を居間まで案内した。居間の座卓の前に、薫はこちら向きで、座っていた。

 「いらっしゃいませ」「根地さん、お茶飲みます?それとも、お酒が良いのかしら?」

 「いや、取り敢えず、俺がお茶淹れるから、二人で話しててくれ」 「ありがとう、昭司さん」 「おぉ!委員長?....の、娘さん?,,,,な、訳ないか?同じ名前なんてね〜」 「コンジッチ!本人だよ!時雨君には黙ってて」 「はぁ〜、あり得ないだろう、如何、見たって、俺たちの半分くらいの年齢だ!」

 「実は、私、死神なの!」 「ほぇっ、何だよそれ」 「あんた達は知らないよね、私、完璧美少女だったから!」 「自分で言える、その神経、間違いなく我らの委員長だわ!」 「一寸、大人しく聞きなさい!」

 「私、完璧すぎて、その反動かしら?ダメンズに引っかかって、結婚!出産!挙句に、旦那に浮気されて、その上、殺されちゃったの」 「ま、本当マジか?」 「そう、35歳の時ね」「私の親も流石にね、秘密にしたし」「私が死んだことと、娘を引き取ったことは親しい人たちにだけ」「元々、私の実家いえって、親戚少ないし」「事件も関西で起きたから。隠し易かったのね」 「それで、死神って?」 「うん、人は死ぬと、次に生まれ変わる迄、魂の休憩所みたいな所で休むのよ」「でも、私は、幼い娘を残しちゃったし、騙されて、殺されちゃったりしたから!ここ、詳しくは言えないの、深淵に関わることだから」「兎に角、私は、娘を見守るため、生まれ変わる事を諦めて、死神として働いてるの」 「働くって?如何言うこと?」 「死んだ人の魂が、迷うことなく、魂の休憩所に辿り着けるように、案内っていうか、運ぶのよ」 「報酬は?」 「私の場合、娘の幸福かな」 「それで、如何して、此処に居るの?」 「それがね、時雨君のお母さんの魂を迎えに来た時」「絶対に、あり得ないことなのに、頼まれちゃったの、昭司さんのことを」 「私と波長がよっぽど、合ったのか?よく分からないんだけど」「いつもは、話すらできないのに?」 「あぁ、分かったような気はするな?でも、そこまで話すって、死人に口無しとか!怖いこと言ったりする?」

 「相変わらず、馬鹿ね〜、あんた位よ、こんな話まともに聞くのは」 「でも、おかしいだろう、時雨がお前のことに、気付かないなんて?」 「それが、出来るくらいの力はあるね」 「それで、俺は如何なる?」 「如何も、なんないよ!」「あんたが死ぬか?時雨君が死ぬまで、私達を見守ってて」「私は、もう、死んじゃったから」 「分かった、お帰り!久し振り、委員長」

 俺が、お茶を淹れて戻ると。ほんの5分くらいの間に、二人は打ち解けていた。流石に、根地は気安い野郎だ。それから、薫の作ったおかずを肴に、ビールで始まり、水割りで締めるまで酒を酌み交わした。愉快な夜は早々に過ぎて行く。

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 翌日、お袋の葬式以来、縁遠くなっていた妹が訪れた。見るからに若い薫を、かなり警戒した様だったが、小一時間もしないうちに打ち解けてしまった。何故か、60代の妹が、如何見ても30代の薫を姉さん呼びするのには驚いた。後で聞いたら、不思議に貫禄があって、年下には見えないらしい。薫に告げると、嬉しげに貫禄!貫禄!と呟いていた。

 薫と暮らし始めて、一寸、不思議なことには、薫が時々、姿を消してしまうことだった。何処へ行くのか?余り干渉はしたくないのだが。長くても、30分とは掛からない間、文字通り、姿が消えてしまうのだ。そして、ほんの僅かな時間が過ぎると、本人曰くの完璧な美人の微笑みを湛えて、戻ってくる。

 消えて、現れる時はまさに戻って来た。と、しか、言えない風情なのだ。こんな、爺いの元に、何故あんなに、若くて綺麗な娘が居てくれるのか?小金はあるが、それで、引き合うとは、到底、思えない。それと、不思議なことに、初めて会った時から、懐かしく思えたのだが、それが、どこかで会ったみたいな感じがない事。うまく言えないのだが、一度も見ずに、触れずに、懐かしいと、思えるのだろうか?それと、根地が言った、委員長と言う言葉、根地は此処に来て、薫に会うたび委員長と呼ぶ。薫も嬉しそうに答えている。それが、如何にも腑に落ちない。嫉妬してるのか?と、思う時もあるが、どうも、それでもない。薫と暮らし始めて、笑うことが多くなり、確かに幸せを感じるのだが。あんな、若い娘と一緒にいて、自分だけが取り残される不安を一切、感じないのは、良いことだと思うと、同時に小首を傾げてしまう。絶対的な幸福を得て、それを無くす不安が無いとは如何言うことだ、と、小首を傾げる。この、天国の日々はいつまでも続きそうだ。

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 閑古路倫で御座います。次回、性描写ありの回となります。基本的に、大人のストーリーですので、「コットンキャンディ」より、多く成ります。作者の趣味です。悪しからず!お願いします。

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