時雨君は、50年後に委員長(死神になった)の腕の中
閑古路倫
第1話 時雨と書いて“しげる“と読むんだ!
「センター長!“しぐれ”さん!“しぐれ”センター長!」
「おいおい、総務の新人君、俺は、“しぐれ”じゃぁ無いんだ、時雨と書いて“しげる”と読むんだ!」「雨の後は、草木も“しげる”だろう!そう、憶えてくれ」
俺の名前は、
「まぁ、“しぐれ”さんなら未だ良いよ!君の先輩の“川牟礼”女史は、俺を“ひぐれ”さんと呼びやがった」
「蓮堂は、“はげる”さん呼びしてたぜ!」
「
「まぁ、昔っから、お前は“はげる”呼びされてたよな!親子は似るね〜!」
「お前も、見事にツルッツルじゃあねえか、親子は似るね〜」
「親父のことは、言うんじゃねえよ!」
「お互いにな!」
「しげるセンター長、
「俺たち、後、1ヶ月もしないで定年だぜ、そんな爺いに名前、覚えて欲しいのかい?」
「根地さんは、確かに!でも、時雨さんは、非常勤で残るんですよね!」
「まぁ、月の半分も出勤はしないし、1年限定の積もりだがね」
「後進を、ちゃんと育てとかないからだぜ!一年のご奉仕で、済めば良いな?」
「根地、減らず口ばっかりで、仕事しやがれ!」「実務は、力矢が居れば問題ない、俺は、むしろ邪魔ぐらいのもんだ!」「新しい、教育実習センター長との引継ぎが、残ってるだけだ」「お客様の都合で、4月にならないと、こっちに来れないから」
「「そう言う、ものですか」」
「まぁ、そうだね、難しい話じゃ無いと思いたい」
#%#%#% #%#%#%
定年まで、後1週間、俺は軽く足慣らしのつもりで、地元の山を登ることにした。標高八百メートルと手頃な高さ、登山道も整備されている。まぁ、五合目辺りまで、舗装されたアスファルトの自動車道はある。しかし、俺は山を登りに来た。当然、麓の駐車場に愛車を止めて、山頂にある神社までの未舗装の参道を登ることにした。俺の愛車とは言ったものの、実はそれほどの思い入れはない、これの前の車は好きで、20年近く乗った。俺は、拘りが強い方とは思っていないが。
妹に言わせると、如何やら愛情深いタイプらしい。そこまで、愛した車を手放したのは、同居していた母の具合が、悪くなったからだ。足腰の衰えと、痛みは以前からあったが半年前ぐらいからボケの症状が見え始めた。
それと前後して、車の不調による修理が重なったため、買い替えを決めた。いざと言う時自分の車が無いのは不便である。又、益々、不自由になるであろう母の体のことを考えた。運転の楽しさをある程度、犠牲にしても母の乗りやすさ、乗り込む時に負担の少ない車を選んだ。只、前の車の後継車である事は譲れなかった。あれ?俺ってば、拘ってる?な。
そうこうしているうちに、母は、夏の暑さにやられてしまった。徐々に食事が出来なくなり。遂には、入院の運びとなった。そして、入院して一月と経たぬうちに、誤嚥性肺炎を患ってしまい。夏バテで体力が落ち切ったこともあってか、呆気なく、永遠の眠りについた。慌ただしいばかりに、全てが過ぎてしまった。残ったのは、ピカピカの新車、母のことがなければ、決して選ばなかった車!
虚しさと、やり切れなさの塊、俺の中でこの車の価値は、そんな程度に落ち着いていた。
「これが、愛車とは呼べないな」
そんな事を考えながら30分も歩いていると、前方に人影が見え出した。目の前10メートルに人影!この道は生活道路では無いが、近隣の人たちが散歩に使う事もある人がいても珍しくは無い。しかし、目の前の人影は女性、しかもスーツをお召しになられている。更には、ヒールのある靴を、おみ足に履いていらっしゃる!もぉ、トラブルの匂いしかない。しかし、その香ばしい匂いに俺は逆らえないように、半ば呆然と彼女に近づいていった。
「あら、ちょうど良いところに、いらして下さったわ!」「どぉやら、私、足を挫いてしまったようなの?」
ん!彼女は、俺の顔を見ながら、微笑みながらそう言った。歳のころは、二十代後半から三十位か?背の高い、手足の長い、はっきり言って“美人”だ!
全体に小作りの和風美人だ、俺の好みのど真ん中だ!こんな爺いで無かったら、天に昇ってしまって、まともに話もできなかっただろう。
「おっ、おっ、お嬢さん(あれっ?)ど、どない、いか、しはりまっしゃろか(ありゃりゃ?)」天に昇ってんじゃん!俺!良い歳ぶっこいて!
「ふっふっ、面白い、おじさん」「ちょっと、道に迷ってしまったの、家に帰りたいので、送ってくださらない?」
「エッ、し、失礼ですが、此方には車でいらしたのでは?」
「あら、此処は、車じゃないと来れないかしら?」
「いや、かなり遠いですが、バス停はありましたね」
「じゃあ、バスで来たのよ」
「へっ、あなたの事ですよ?」
「だから、バスに乗ってきて、此処まで歩いたのよ」
「あぁ、そうですね、本人が言うなら間違いない?」
「そう!間違いないわ」
「うん、そうだ、何で疑問に思ったのかな?」
「そこ、考えないでしげる君」
「ふぇ、俺、名前言ってなくない?」
「惚けるのは早過ぎよ!しげる君、“しぐれ”と書いて“しげる”と読む、おじさん、あなたはそう言ったのよ、私に、ついさっき」
「うん、そうでした?」「そうだった?」「そうだった!」「時雨と書いて“しげる”と読む」「平常運転、問題もなし、ヨシ!」
山の麓の駐車場まで、小一時間もかけて戻った。車に乗り込み、行く先を訪ねた。
「芋海市まで、私の地元、芋畑が海のように広がる、素敵な町よ!」
「エッ、そこ、俺の地元、住んでる所、そっから、来た、おれ?あれっ?」
「良い車ね!私大好き!」
あれっ、一気にこの車、俺の愛車になっちゃつた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます