2章 20話
「彩楓お姉ちゃんの家? うん、行ってらっしゃい」
急ぎ靴を履いていると、美穂の部屋から不安そうな声が返ってきた。
帰ってきたら、ちゃんと説明しないとな……。
今は兎に角、急がないと!
しっかり施錠をした俺は、全力で走って彼女の住むアパートへ向かった――。
意気を切らせながらも、足を止めずに数十分。
震える足で上る屋外階段に、足が悲鳴を上げてる。
あと少しだ、動け、動け! 足を叩き、一刻も早く辿り着くために無理やり動かす。
やっと部屋の前に辿り着き、インターホンを鳴らすが……誰も出て来ない。
出られないぐらい、状況が悪いのか!? ドアノブを回すと、鍵がかかってなかった。
「失礼します! 風間です、平気ですか!?」
電気も付いておらず、暗い室内へ踏み込む。
電気はどこだと、恐る恐るダイニングキッチン辺りを歩いていると――。
「――いた、い……」
「うわっ!? えっ!?」
足下にフローリングとは違う、柔らかな違和感があった。
壁に手を突き、スイッチらしきものの感触がある。
飛び出したスイッチを押すと、室内に明かりが灯った。
「え!? あ、彩楓さん!? 何でキッチンに布団を敷いて寝てるの!?」
「おはよう……。来てくれたんだね、ごめん。寝ちゃってたみたい」
ダイニングキッチンに敷かれた布団で、足の辺りを押さえる彩楓さんの姿が見えた。
あ、もしかして……。俺が彩楓さんの足を踏んだのか!?
「ごめん! 俺が踏んだんだよな!? 痛みは!? 風邪は!?」
身体を起こそうとする彩楓さんに「寝ててくれ」と促しながら、慌てて尋ねる。
すると彼女は風邪で火照ったような弱々しい表情で……。
「大丈夫、来てくれてありがとう。私はそんなに熱ないんだけど……。治療で免疫力が落ちてるお母さんには、近付かない方がいいかもって言われて……。料理も、直接はできないんだ」
「そっか……。動けるようで、まずはよかった。ほら、これ飲んで」
「……ありがとう。助けとか協力を求めてばっかりで、ごめんね」
風邪に効くかなと思い途中で清涼飲料水を買っておいてよかった。
マスクを少しズラして、美味しそうに飲んでる。
「熱は何度ぐらいあるの?」
「ん~、三十七度五分か、ちょっと上ぐらい?」
「十分、キツイだろ」
「私より、お母さんがさ……。ご飯も食べてくれなくてね、熱も下がらないで辛そうなの」
そうか……。普段でも食欲がないんだ。熱があるなら、余計に食べたくないんだろう。
彩楓さんは料理ができない状態だし、それなら俺が作ろう。
「分かった。マスクもらうね。あと、台所を借りるよ」
洗面所で手を洗った後、今では随分と慣れた彼女の家の中を歩き回る。お母さんが寝てるなら、起こさないようにと音を潜めながら。
「あっ。ウイルス感染とかの関係で料理はできないって言ったけど、でも洗い物ぐらいなら――」
「――いいから、大人しく寝てろって」
起き上がろうとする彩楓さんを無理やり横にさせる。
エプロンを身につけると――。
「――凛空さん? 来てくれたのね……。ごめんなさい、私がこんな状態なばっかりに……。本当に、ごめんなさいねぇ……」
少しだけ開いたドアの向こうから、お母さんの声が聞こえた。
―――――――――――
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