2章 12話
歩くこと数分。
俺たちは、夕暮れどきの公園に来ていた。
親への挨拶と思ってたから、夏休みなのに互いにブレザーだ。
せめて夏服なら、部活帰りとかに見えて自然だったのに……。
「ほら、どっちがいい?」
「え、奢ってくれるの?」
「まぁ……迷惑かけたから」
「迷惑かけたの、私じゃない?」
君がいないところで、お母さんに嘘がバレたんだよ。
それに美穂の件も考えたら、自販機でジュースを奢るぐらいで済ませるべきじゃないのかもしれない。
差し出した炭酸ジュースと緑茶。彼女は迷いなく「これ! ありがとう」と緑茶を手に取った。
「炭酸、嫌いなのか?」
「分からない、飲んだことないんだよね」
「高校生で、一回も炭酸を飲んだことない人とかいるの?」
「いるよ、ここに。お茶はさ、脂肪を減らす効果があるんだって~」
まぁ、そうかもしれないけど。そこまで自分磨きを徹底してるのか。
「それで……。本当はさ、どこまでお母さんに聞いたの?」
「彩楓さんと、昔に会ってたこと。後は、多分昔に仲がよかったんだろうなってぐらい」
「……本当に、それだけ?」
「それだけだけど……。まだ何かあるの?」
俺が尋ねると、彩楓さんは顔を逸らしてお茶を口に含んだ。
夕焼けで頬が茜色に染まって見える。
少し藻掻くように身体をジタバタさせた後、意を決したように立ち上がった。
「昔の私を思い出して、写真を見てどう思った!?」
「え……。芋っぽいというか、あどけない可愛さがあるなって」
思い出しても、今目の前に立つ彩楓さんと同一人物には思えない。
こんな洗練された美しさに成長するとか、どんなマジックを使えばそうなるのか。
「でしょう!? それじゃ、今の私は?」
「今は……凄いよ」
俺とは比べ物にならない。
正直、劣等感に苛むレベルで……笑うと快活に可愛く、普段はクールな美しさが混合してる。
冗談じゃないぐらい、理想のタイプ。
それこそ、ゲームやアニメとかの二次元キャラを好きになるのと同レベルだ。
こんなの、妄想でしかありえないぐらい好みだ。二次元みたいに、手が届かないからこそ……好きになる。実際に横に立ったら、足の長さや見た目のレベル差に落ち込むぐらい、凄いと思う。
「凄いとかじゃなくてさ、好きか嫌いか!」
「……俺は、俺が嫌いだ」
「質問の答えと違うよ! わざと、はぐらかしてる?」
分かってる。彩楓さんが聞いてるのは、彩楓さんのことが好きか嫌いか。その答えを引き出したいってことぐらい。だけど……これ以上、ムダな嘘も吐きたくない。
お母さんには、嘘の関係を続けてくれって言われたけど……。
それは、永遠の関係を約束してない。
長くても、お母さんが安らかに旅立つまでだ。
それまでに、できれば彼女に相応しい男を見つけて、ダメなら仲いい友達ぐらいの立ち位置を獲得する。そうすれば、お母さんだって安らかに旅立てるはずだ。
そう見送れたらいいなって、お母さんと話して情が湧いた今は……より一層、思いが強くなってる。
「……言えないって答えじゃ納得してくれない?」
「言えないって、何で?」
「俺の責任」
「何、それ……。教えてくれれば、私はどんなことでも手を貸すのに」
止めてくれ。昨日、美穂を探してくれたときにも思い知った。俺にとって百点満点の君と、精々が六十点の俺のスペック差を。
君が手を貸してくれたら、もしかしたら……平凡の壁を打ち破れないって問題は解決してしまうのかもしれない。
その問題が解決するのは嬉しい。悲願でもある。
だけどもう一つの問題が、返って強くなるだろう。
そう――俺の自己肯定感が、更に下がるって問題が。
結局、彼女に依存して、一方的に助けてもらわないと生きて行けなくなる。
所謂、ダメ男にしかならない気がするんだ。それは、絶対に嫌だ。
俺が、俺自身を許せなくなる。
「もう……。幼稚園の頃の会話とか、思い出した?」
―――――――――――
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