2章 3話

 プリクラを撮った後、彼女は俺をショッピングモールに連れていった。

 行き先は、どうやらアパレルショップが大量に入ってる場所らしい。

 本当に、俺をコーディネートしてくれるようだ。

 俺としても、少しでも彼女の隣に歩いてるのを違和感に思われる場面が減るのはありがたい。


 平凡なルックスから抜け出せるなら最高だけど……。それは望みすぎだろう。分かってるんだけど、少し期待してしまう。

 これだけ綺麗な人にコーディネートされたら、もしかしたら俺でもって……。


「これ、凛空君に絶対似合う! カジュアルか爽やか系でいこっかな。それとも、キチッと格好よく……」


 彼女は瞳を輝かせて、ぐるぐるとショップを駆け回っている。

 着せ替え人形にでも、なんでもしてくれ。それで外見の自己肯定感が上がるなら、どんな服でも喜んで着よう。


「うん、これ! これ似合いそう。ねぇ、着てみて!」


「はいはい」


 彼女が選んだ服を一式手渡され、試着室へと入る。

 今まで俺が着なかったような、派手な服装だな。本当に、こんな服が俺に似合うのか? いや、彼女の感性を信じてみよう。

 そう思いながら着替えて、鏡を見てみる。


「……完全に、服に着られてる。……マネキンの方が、よっぽど俺より似合うじゃねぇか」


 派手目な服に身を包む俺の姿に、思わず呟きが漏れる。

 悔しい……。自分がみっともない。

 簡単に割れそうな姿鏡に、軽く拳を当てる。

 鏡に映ってる、どこにでもいそうな自分の胸に拳が触れていた。決して本物の自分を殴ったわけじゃない。


 それなのに、だ。

 普通という厚い壁の中で、自信なさそうにしてる自分の胸が、息苦しい程に痛む。


「どうだった? あれ、脱いじゃったの?」


「……ごめん、もう少し地味というか……。無難なのにしたい」


「好みに合わなかったか~。了解! 待ってて!」


 嘘の笑みを浮かべた俺から服を受け取ると、彼女は服を店員さんに預け、また駆け足で店内を物色し始めた。

 ここまでしてくれるのに、何も買わないのは申し訳ない。店員さんにも、彼女にもだ。

 結局、彼女が持ってきた中で一番着られてる感の薄い地味な服を買った。


「次はこれを着て一緒にデートしようね! 私の服も選んでほしいな~」


「俺じゃ無理。センスないから」


「え~。一緒に選ぶことに意味があるんだよ?」


 彼女のスタイルと顔なら、何を着ても似合うだろう。

 だけど、それは彼女がたゆまぬ努力の果てに手に入れた美貌だ。

 マネキンにも劣る見た目の俺なんかが、あれこれと手を加えていいものじゃない――。


 彩楓さんとアリバイを作り続け、初夏になった。

 そろそろ、お母さんを納得させる材料も揃ってきたと思う。

 焦りすぎはよくないけど、余命数ヶ月のお母さんを早く安心させてあげたい。会ったこともない他人――彩楓さんのお母さんに、そう思うのは変かもしれないけど。

 どうしても、そう思ってしまう。


「ね! 今日のデートはどうする?」


「ここのところ、毎日のようにアリバイ作りしてるじゃん。もう十分じゃないか?」


「毎日でもいいじゃん? 私と一緒にいるの、嫌?」


「嫌というか、辛い」


 俺自身が……隣にいるうちに、偽装とは分かってても彼女との絶対的な差を感じて辛くなってきたというのがある。

 納得してもらって、アリバイ作りに必要になる密な偽装関係が早く終われば……。この屈辱感とか惨めさからも解放される。


 そんなことを思う自分が情けないけど……。人は自分と誰かを比べずにはいられない弱さを誰でも持ってると言うんだから、仕方ない。

 俺は他の人よりも、誰かと比べてしまう感情が強いんだろうとは思う。


「……辛い、か~。私の何がダメかな? 頑張って直すよ!」


「君は何も悪くない。……もうすぐテストだよ? 君は平気だろうけどさ」


 言外に、俺とは違ってと伝える。

 だけど、そんなのは伝わってないのか――。


「――それなら、図書室デートだね! 放課後に一緒にテスト勉強! うん、最高だ!」


「……それ、写真撮れない場所だろうが。お母さんの説得材料にならないじゃん」


「いいじゃん、説得以外でもさ……。あっ。そうだ、私が早くお見舞いに行ったら、本当にデートしてるのか疑われるかも?」


「その理由は絶対に今、考えただろ」


―――――――――――

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