2章 2話

「あ、それは言わないでよ! 昔から、気にしてるんだから……。直すぞって、長年かけて変えてきたけどさ……。目とか顔の造りって、自分磨きをしても限界があるよね」


「俺への嫌味かな? それとも、周りの女子への宣戦布告?」


「違うよ! 鼻が高くなるように矯正したりとか、顔がシャープになるようにマッサージとか筋トレとか。細身になる運動とか表情とか……。お化粧だってそう。――もう十年以上、目標を定めて努力を続けてるんだから。私の場合、成長期前から始められたのは大きかったと思うけどね」


 彼女の美貌が優れてる理由の一端を垣間見た気がする。

 十年以上前って、幼稚園とか小学校入学ぐらいからだろ? 身体も全然成長してない時期からやってれば、それは有利だろう。

 テレビ番組で、幼い頃から首に輪を徐々に増やして長くしたり、小さい靴を掃き続けて足を小さくしてる人の集団を見たことがある。

 それと似たような何かを、やってきたんだろうな。自分が理想とする美貌になるために。


 その頃の俺なんて、乳歯が抜けた間抜け顔で、サッカーやら木登りなんかしてた。

 イケメンになろうとか、勉強ができるようになろうとか……。普通、そんな他者評価を気にして外見に気を使い始めるのは、もっと成長してからだろうに。


 一体、何が幼い彼女を、そこまで動かしたんだろう?

 やっぱり彼女は、謎だらけだ――。


 そうして迎えた放課後。

 俺たちは街へデートにきていた。アリバイ作りのデートに。


「制服デート、やってみたかったんだよね! そっちは諦めかけてたんだけど……。高校三年生になって叶うなんて、幸せ!」


 お母さんを説得するための、偽装だって忘れてない?

 いや、お母さんを愛して、心配してるからこそ……。本気で楽しむ姿を完成させて、心残りなく送り出そうと努力をしてるのかもしれない。

 十年以上も同じ目標を持って努力してきた彼女なら、ありえる。

 それにしても、だ。これだけ可愛いのに、今まで彼氏ができたことなかったんだな。制服デートなんて、いくらでもできそうなのに。

 出会ってからたった一ヶ月程度で、これだけ『変人』と学校で浸透してきたんだ。

 幼い頃から、長く住んできた川崎では、外見や中身は満点だけど、付き合うには変人すぎるとか思われてたのかもしれない。

 そう考えると、少しだけ親しみが湧く。まぁ……。俺とはスペック差がありすぎるから、ほんの少しだけ、だけど。

 そんなことを考えながら、ショッピングモールで彼女の隣を歩いていると


「やっぱいいな~」


 突然そう微笑んだ。


「何が?」


「そっか。ぜ~んぶ無自覚なんだね。このエスコート上手!」


「わけが分からない」


「私には伝わってるよ! ありがとう」


 ありがとうと言われる覚えがない。ただ一緒にいるだけで、お礼を言われても反応に困る。

 何に対しての言葉なのかは分からないけど、楽しそうなら何よりだ。これ以上、無粋に突っ込んで聞くこともないか。

 普段、あまり行くこともないモール内を歩いていると、小さなゲームセンターが目に入った。


「あ、プリクラある! 一回、撮ってみたかったんだ~! ね、私と撮ろうよ!」


 プリクラを撮るのも、初めてなのか? もしかして友達と遊ぶとかも、ほとんどしてなかったのかな……。

 プリクラとか、カップルの典型かもしれない。詳しくないけど。お母さんにアピールする材料としても、いいだろう。

 二人で撮影機の中に入ったはいいけど、ポーズに困る。


「ええっと……。あの、こんな感じ、なのかな?」


「あ、うん。多分?」


 彼女が手でハートマークの半分を出してきた。俺も手を差し出すことで、ハートマークが完成する。

 カップルの典型なのかもしれないけど……。結構、恥ずかしいを超えて辛い。

 普通の恋人同士を超えて、婚約者レベルの仲を見せようとしてるからかもしれないけど……。

 慣れないことに、違和感が拭えない……。

 彼女と初めて指先が触れてることに、挙動不審になる自分も辛い。これは偽装関係なんだ。本気になるな……。ドキドキするな。


 撮影画面を見れば、彼女も照れ臭そうにしてる。

 これは……婚約まで行くカップルの証拠になるだろうか? 初々しい関係と見られたら……。

 いや、時系列だ。このプリクラは付き合ってすぐの証拠として出せばいい。


 何ごとも、物は使いようだ――。



―――――――――――

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