1章 25話

「……風間君? 勘違い、してない?」


「勘違い? 俺が?」


 何がだろう。元気に見えたのが実は……勘違いとか?

 俺と婚約、親への挨拶と……生き急ぐというか、焦ってたからな。

 周りからは快活で眩しく見えても、本人は元気なつもりがなかったのかもしれない。


「……知ったような口を効いて、ごめん。俺、余命宣告されてる人と話すのなんて初めてでさ。君の抱えた想いとか分からなくて――」


「――余命宣告をされてるのは、私じゃないよ?」


「……は?」


 思考がフリーズした。全く意味が分からない。


「余命宣告をされてるのは……私のお母さんだよ。私を愛してくれた、たった一人のお母さん」


 余命宣告をされてるのは、河村さん本人じゃないのか。

 一気に力が抜けたのと同時に、安心もできない。


 それでも……辛い、よな。大切な親が、あと半年後にはいなくなるってことなんだから。


「そっか……。河村さん。だから、だったのか」


「……ん? 何が、かな?」


「便利で協力してくれそうな俺への不自然な告白……。突然すぎる婚約とか、親への挨拶とか。大好きなお母さんを、安心させたかったからの提案なんだな?」


 そう考えれば、全ての辻褄が合う。

 重い役目に、事情。こういう理由だから協力してくれと伝えられず、それでもお母さんの前にと好きでもない相手に好きなような言動をした全ての想いにだ。


「……大切なところが、ちょっとだけ違うかな。でも、お母さんを安心させたかったのは合ってる。お母さんはダメ男に騙されないで、良い男と結婚してって……。ずっと私に望んでたから」


 大切なところが違う? ここまで話してくれてるのに、まだ彼女の秘密が分からない。


 どう考えても、お人好し……いい人と思われたい俺に協力をしてくれって気持ちにしか感じられない。そうじゃなければ、彼女に相応しくない俺に近付く理由がないだろう。


 あの廊下で河村さんを庇い、いじめのターゲットになりかけた一件。

 あれで彼女は、俺なら協力してくれそうと思ったんじゃないのか?

 都合の良い男として……。いつも俺を利用する人みたいに、俺を見てたんじゃないのか?

 分からない、君のことが……。君の抱える感情が、理解できない。


「こんな私の抱える重い状況を話してから、婚約とか親への挨拶をお願いするなんて……。卑怯だよね。……ごめんね。あの言葉は一時、忘れて――」


「――偽装婚約、なら」


「……え?」


 


―――――――――――

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