1章 23話

 俺でも知ってるような、有名で大きな病院に彼女は入って行った。

 さすがに、院内にまでついていくわけにはいかない。


 出入り口が見えるコンビニ前で、頭を落ち着けよう。


「頻りに言ってた『時間がない』って言葉……。もしかして、彼女は……」


 病気、なのか? あの元気に笑い、快活で挫けない彼女が……。


 考えにくいけど、そうだとしたら……つじつまが合う。


 婚約だけして、迷惑をかけなそうな人間。

 心残りにもならなそうで、都合のいい人間。

 残りの期間、思い出作りだけで……本気には、ならなそうな人間。

 それでいて極端に格好よくも不細工でもない……と評価されてる人間。


 自分の余命が残り少なくて、結婚や恋人がいる生活を体験だけしてみたいとしたら……。

 俺みたいな人間は――全て当てはまって丁度良いだろう。


「そういう、ことか……」


 点と点が、線で繋がった気がした。それなら、俺も力になろう。

 残りの寿命が少ない彼女に……。いい思い出をプレゼントする。決して本気にならず、都合のいい男。

 その彼女の願いになら、俺は相応しい。

 だったら、彼女の笑顔のために全力を尽くす。


 意を決した俺は、病院の中に入る。

 待合室に……彼女の姿はない。


 どこにいるんだろうと、院内をさまよい歩いてると――エレベーターが開いた。


「え……」

「あ……」


 目が合った。エレベーターの中で、瞳を潤ませてる河村彩楓さんと。

 そのエレベーターが止まる病棟を、見てみる。


「……緩和ケア、病棟?」


 あんまり聞き覚えのない病棟名があって、思わず口に出してしまった。


 すると彼女は、唇をキュッと引き締め――。


「――バレちゃった、か……」


 そう、儚く笑った。

 本当に彼女が……。病気?


「ついてきてくれる? 私の抱えてる秘密。話したいから、さ……」


 彼女の声に従い、俺は病院を出た。

 後ろをついて少し歩き、小さな公園のベンチに座る。

 沈黙のまま、何を話せばいいのか分からない。


 緩和ケアについて、この公園へ来るまでにスマホでサッと検索だけしたら『癌』、『終末期』、『人生の最期をどうすごすか』なんて予測ワードが表示された。


 今までの人生で、余命を考えなければならない大きな病気にかかった人となんて接したことがない。

 それが俺と同じ年齢の子なんて……。薄幸の美少女とか、余命のある高校生なんて……。映画やドラマ、物語の世界だけだと思ってた。


 彼女が病気なんて、未だに信じられない。声なんて、かけようがない。俺自身も戸惑ってるし……。現実を認めたくない。


 自分の身体に起きてる病気じゃない。まだ彼女とは出会って三週間ぐらいだ。

 それなのに、なぜか……。彼女がいなくなるなんて絶対に嫌で、心が苦しかった――。


「――風間君には、お願いを受けてもらえるまで隠しておきたかったのになぁ……。なんで、あの病院にいるかなぁ……」 


「……ごめん。君がなんで、そんなに俺へこだわるのか。そうまでする君の秘密はなんなのか。どうしても気になって……。ストーカーみたいに後を付けたんだ」


 責めるなら、責めてくれ。むしろ、そうしてくれた方が楽になる。



―――――――――――

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