1章 22話

 翌日の学校でも、河村さんは変わらなかった。


「おはよう風間君。ねぇ、お願い。いきなりアレはお願いしないから……。せめて連絡先だけでも交換してくれないかな?」


 明らかに最初より焦ってる様子の彼女が、譲歩してきた。


 この数週間、彼女は代わりの誰かへお願いした様子がない。

 誰かに受けてもらえるかは分からないけど、ずっと断り続けてる俺よりは可能性があるだろうに。利用するのが難しいと、いい加減に分かるだろうに、だ。


 こうなると校舎裏で彼女に、もっといい男を選び放題だろうと言ったときの反応が気になってくる。


 あのとき『ダメなの! 他の人じゃ絶対に! ……改めて、そう確信したの』と、彼女は言ってた。


 記憶に鮮烈に残りすぎて、一言一句忘れない。――彼女には、何かがある。


「ね。無視はしないで? 初日に無視しちゃった私が言うのも、変だけどさ」


「それはその通りだな。もう気にしてないけど。……俺は、君みたいな人と連絡先を交換するに相応しくない」


「だから、それはさ――」


「――昨日、改めてそう感じたんだよ……」


 努力の結果が実らないだけならいい。それなら、慣れてる。

 でも小学生の……可愛い妹にさえ嫉妬した事実は、改めて自分を嫌いになるには十分な経験だ。


「……そっか。分かった。何があったかは、これ以上は聞かないね」


「そうしてくれると、惨めな気持ちが増さなくて済むな」


「うん。ただ、私は諦めないよ! 私に足りないところがあったら、言ってね!」


「俺が君に足りないんだって、何度言っても理解できないところかな……」


 なんで彼女は、こうも俺に執着するんだろう。もはや、怪しいのレベルだ。

 やっぱり――彼女の秘密が知りたい。一度、彼女と二人っきりになって聞いてみるか?


 そうして下校時、彼女の後ろについて歩いたのはいいけど……。


「……ストーカーじゃねぇか。これ……」


 上尾は、人が意外に多い。通勤快速列車が停まらないクセに、滅茶苦茶、駅が込む。

 人気のないところへ放課後に呼び出す勇気もでなかった。彼女の秘密を教えてほしいから呼び出すのは、言いにくくて……。自然と人気がないところに行けばと放課後、校門近くで声をかけようとしたけど、生徒が多い。


 そのまま駅に行けば、人がもっと多かった。彼女が電車に乗るのについていき……。ほんの一駅離れたところ。丁度、普段俺が帰るのと同じ駅で彼女はホームに降りた。


 これなら、見つかっても自分も帰る予定だったと言い訳できそうだ。

 まずい。何か本当に不審者みたいになってる。

 後ろめたさを感じながら、人ごみに紛れて彼女についていく。


 すると――。


「――病院?」



―――――――――――

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