1章 20話
そこまで話が戻るのか。勘違いは解消したかったけど、婚約だの親への挨拶だのは重すぎる。
そっちは今回の話とは、次元が違うから。
せっかく機嫌が直った美穂を落ち着かせながら、彼女を駅前まで送って自宅へ帰った――。
翌日から、俺の日常は変わった。
「風間君! おはよう!」
「お、おう……。おはよう」
朝から、今までの気まずい関係が嘘のように挨拶をしてくる。
周りもザワザワしてて……。
特に、昨日掃除を代わってくれと言ったやつの誇らしげな視線が腹立たしい。
授業の合間、休み時間も――机に向かって予習をしてる俺は落ち着かない。
「……背中突っつくの、やめてもらえない?」
「私のお願い、聞いてくれたらね」
「それ、例のやつ?」
「そっ。例のやつ」
「お断りします」
教科書に視線を戻す。
拗ねてるのか、指先で背中をなぞってくる。河村さんは距離感、おかしくないか? 周囲の視線が痛い……。
こういうのは、俺みたいな六十点がいいところの人間にやるべきものじゃない。
周りからも「釣り合わねぇ」、「趣味悪いのか?」、「風間とか普通じゃん。なんで?」と聞こえてくる。
俺自身、そうは思うけど……。普通は傷付くからやめてほしい。
見ての通り、普通以上の……自信を持てる何かを得ようと頑張ってるんだ。
「ねっ。連絡先交換しようよ~」
「そうしたら、学校でこういうのしない?」
「こういうのって?」
「……君だけじゃなく、俺まで目立つ行動。不相応だから」
言わなければ分からないのかな。まぁ分からないか……。
見た目はともかく、成績から何から平均、可もなく不可もなしなんて、出会って日の浅い彼女が知ってるわけがない。
「不相応とか言われると、私が悲しくなるなぁ……」
「……念のため、言っておくよ。俺が、君に釣り合ってないんだからね?」
「そんなわけないじゃん……。これじゃ、今までの私は一体何を……」
最後の方は真後ろの席なのに、よく聞こえなかった。本当に自分の中で呟くような小さい声だったから。
だけど、落ち込んでほしくはない……。離れたところから、彼女の笑顔を見てたい。
「……ねぇ。それならさ、もっと格好よくなれるように、私がお手伝いするよ?」
「どうやって?」
「街でショップ巡って、おしゃれにコーディネートとか! 一杯、ファッションの勉強もしたんだ!」
「それ、デートじゃん。君の要望を飲ませることに繋がる既成事実作成だろ」
婚約まで一足跳びにいかなくても、周囲から付き合ってると勘違いされるかもしれない。
いや……。荷物持ちと思われるか? それが妥当か。
だけど俺の提案が不満だったみたいで、また拗ねたような溜息が後ろから聞こえた。
「……時間がない」
本当に、弱っていて……焦ったような声音だった。何とかしてあげたいとは思う。
だけど、彼女の突き付けた要求は俺には叶えられるようなものじゃない。
そういうのは、運命を感じた君に相応しく頭も性格もいいイケメンに頼むべきだ。
聞こえない振りをしながら、俺はその日を乗り切った――。
そして次の登校、また三週間ぐらいが経った四月後半になっても――。
「――おはよう風間君! 連絡先交換しよ!」
「おはよう。今日も、いい天気だねみたいに定型文化しないでくれるかな」
―――――――――――
ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます! 本作はカクヨムコン10に参加中の作品です。 楽しかった、続きが気になる! という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです! 読者選考やランキングに影響&作者のモチベーションの一つになりますので、どうぞよろしくお願いします!
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