1章 15話

「俺だって、君に助けられた。婚約とか餌なんてなくても、多少の協力なら惜しまない」


「本当!? じゃあ婚約した上で親に会って!」


「俺の日本語、通じてる?」


「通じてるよ?」


 だったら何で、婚約して親に会うとかいう完全なる終着点に行き着く。


「そもそも君って、そんな話すタイプだったんだね」


「き、緊張の糸が切れたんだよ。そしたら、今まで貯めてた想いが堰を切ったように溢れだして……」


「そうか。じゃあ俺も伝えるよ。君に無視されたときから――嫌いだって言いたかった」


「え。……ぁ」


 悲しそうな彼女の表情が、堪える。

 俺を利用としてただけのはずなのに、何でそんな傷付いたような顔をするんだ……。

 勘違い、しそうになるじゃないか。


「まぁ、君に助けられたときから、そんな感情は消えたんだけど」


「……今は、私のこと嫌いじゃない?」


「……嫌いでは、ない」


「そ、それなら! せめて連絡先交換からでも!」


 彼女はスマホを取り出すと、俺ににじり寄ってくる。

 目が、目が怖い! この子、本気だ! 何に追われてるのか分からないけど、本気だ。

 鞄の中にスマホはあるけど、交換したら何がどうなるか分からない。


 それは多分、恩返しとかを超えて……。可もなく不可もない俺には、とても合わない要求をされるに決まってる。

 絶対に連絡先を教えたくない!


「ごめん、スマホは持ってないんだ」


「嘘! さっき鞄に視線がいってたよ!?」


「ごめん、君に教えるスマホは持ってないんだ!」


「ひ、酷い! お願い、人助けだと思ってさ!」


 彼女は強引に俺の鞄に手をかけ、チャックを開けようとしてくる。

 何でそんな、必死なんだ!?


「ちょっ! やめ――」


「――ぇ……」


 そのとき、スマホと一緒に中の荷物が落ちた。参考書と、筆記用具。

 そして――。


「――女の子用の、ヘアクリップ? スマホ……。受信、美穂?」


「あ……。もう、美穂と待ち合わせの時間か」


 落ちたスマホディスプレイに、何通も美穂からのメッセージが表示されてる。『今日はまだ?』、『早く会いたい』、『事故に遭ってない?』、『待ってます』と……。

 だいぶ、待たせてるうちに態度が変わってるな。これもまた、可愛い……。


 落ちた荷物を鞄の中に仕舞い直す。

 ヘアクリップは、まだ渡すには早い。美穂が本気で拗ねるか、喜んでくれるか……。

 何かしら、適切なタイミングで渡すために、袋にでも入れておくか。

 今みたいに落として、傷がついたら大変だ。あっ。美穂に連絡しないと、怒られるな。


 メッセージを開いて『もうすぐ行くから、待ってて』と送る。


 そうして、彼女の方を見る。


「…………」


 見るからに意気消沈していた。

 さっきまでの……自分で言っていたように堰を切ったような勢いは止まってる。

 悲しそうな、儚げな表情を浮かべ、手を胸の前で組んでた。


「……そっか、そうなんだ。ごめん、ね」


「……ぇ?」


―――――――――――

ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます! 本作はカクヨムコン10に参加中の作品です。 楽しかった、続きが気になる!  という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです! 読者選考やランキングに影響&作者のモチベーションの一つになりますので、どうぞよろしくお願いします!

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