1章 14話

 ダメだ、頭が痛くなってきた……。

 俺が、もの凄く美人な河村さんに対して、緊張とか恥ずかしいって感情を抱くならある。

 だけど、河村さんが俺に……なんて考えられない。


 こんな日本人の平均みたいな、可もなく不可もなしの俺に、冗談がキツイよ……。


「私じゃ……ダメかな? 私、タイプの子じゃない?」


「そうじゃなくて……」


「そうじゃないの!? つまりはタイプってことだよね! やった!」


「なぜ喜ぶ」


 からかってるだけじゃないのか? これでドッキリとかだったら、彼女は大した役者だ。

 見た目も可愛いし、俳優とかになった方がいい。

 そう、何者にもなれない俺とは違って……。

彼女なら、煌びやかな芸能界とかが似合う。


 俺だって本当なら、こんな可愛い子に迫られて嫌がる理由はない。


 でも――。俺は、自分と彼女が違う世界に住む人間だって弁えてる。

 諦めてる……とも、言うかも知れない。


「俺は、君とは釣り合わない。……見て分かるだろ?」


「え、分からないよ?」


「見る目がないんだね。……どう考えても、おかしいだろ」


「おかしいって、何が? 誰がおかしいって思うの?」


 キョトンとした表情で、聞いてきた。


「それは、世間とか……俺とか」


「私は、おかしいって思わないよ?」


「それは君が普通じゃないんだよ。皆、周囲の目を気にして生きるのが普通だから」


「世間の目とかより、自分たちがどうしたいかじゃない?」


 痛いところを突いてくる。同時に、君には分からないだろうって憤りも湧いてきた。

 俺みたいのは、常に他者から比べられてきたんだ。

 劣等感を感じながら、それでも集団で少しでも上に行けるようにって……。そうしないと、自分を保てなかったから。

 河村さんみたいな他者と比べるじゃなく、自分の中での勝負って子には……俺の気持ちは分からない。


「俺が耐えられない。自分で自分を押しつぶることになる。住む世界が違うんだよ」


「一緒だよ?」


「違うよ。というか、なんでそんな俺にこだわるの? 君なら、もっといい人がいくらでも選び放題だろう」


「ダメなの! 他の人じゃ絶対に! ……改めて、そう確信したの」


 何を確信したのかは知らないけど、それは君の目が節穴な証拠だ。

 俺には何も取り柄がない。強いて言えば人のよさ……都合のよさぐらいだ。


 都合のよさ……。

 なるほど、そういうことか。


「河村さんはさ」


「彩楓でいいよ?」


「……河村さんは、俺に何か頼もうとしてるね? 婚約とかじゃなくて」


「そ、それは……。うん」


 ほら、やっぱりだ。

 危うく、彼女が俺のことを好きだとか……。一目惚れしたとか。


 分不相応な考えをするところだった。


 つまり彼女は――俺を利用したいんだ。婚約という餌をぶら下げるぐらいだ。

 よっぽど頼みにくいか、リスクが大きいことなんだろう。



―――――――――――

ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!


本作はカクヨムコン10に参加中の作品です。

楽しかった、続きが気になる! 

という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!


読者選考やランキングに影響&作者のモチベーションの一つになりますので、どうぞよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る