1章 9話
彼女が以前の高校で何をしていたかは知らない。
それでも彼女が女子サッカー部の子ほどじゃないにせよ、上手いのは見て分かった。
何より凄いのは、自分が奪ったボールを均等に味方へ分け、ミスをしても責めない。
笑ってドンマイと言い、やり直しの機会を何度でも与えてる。
文武両道の才色兼備。人格者。現実的じゃないぐらい、優れた人物だ。
そして――俺がどれだけ欲しっても兼ね備えてないものを、全て持っている。
彼女が今までしたきた努力が仮に本当なら……。簡単に羨ましいなんて言うべきじゃないのは重々承知だ。
そもそも、俺と比較すべき対象じゃないのは分かってる。
それでも……立派な彼女と比べて、自分が情けない。
人としての差を突きつけられてる気分だった。
結局、早く終われ早く終われと願ってるうちに授業が終わった。
終業の挨拶をしてから、すぐに制服へ着替え一人になれそうな場所へ向かう――。
「……他人の幸せを素直に喜べよ。あの子がクラスで浮いてた方が望みだったのか。ちげぇだろ?」
他人の目がないトイレの個室で、自分に問いかけた。
汚い自分の心を見ると、いつも平凡で惨めに感じてた心が……。更に嫌いになる。
何で俺は、もっと素直に現状に満足できないのか。
楽しめれば、普通でも……。俺とは別世界に生きる人間から無視されても、いいじゃないか。
「……何で俺、こんなにショックを受けてるんだろ?」
彼女に無視された事実が、数日経った今でも心を軋ませる。
彼女が教壇で流してた涙を見て……。凄く、嫌な気分になる。
あんな顔を目にするぐらいなら、俺とは関係ないところで笑ってる今の表情がいい。
明るくて、見てるとこっちまで元気になっちゃうような笑みが最高だ。
いきなり無視された人間の笑顔を陰から願うとか……。我ながら、わけが分からない。
もう順位とか、俺が平均ですらいられなくなるというのも関係ないんだろうな。
完全に別次元の存在だと思ってるから、彼女が幸せじゃないと嫌なんだと思う。
それだけのスペックがあるなら、常に幸せであれよって……そう願っちゃうんだろう。
そうだ、羨むことなんてない。自分とは別の生き物だと思えば、何も辛くなんてない。
俺がモブで、彼女は社会の主役。それだけだ。
トイレから出ると、数人の女子が廊下で声を潜めて話してるのが見えた。
狭い廊下を塞がれると、歩きづらいんだけど……。スクールカースト、元トップの女子だから、文句を言えない。
学校なんて社会は、上に立つ人間の集団に嫌われたら地獄なんだから。
可もなく不可もないモブはモブらしく、壁に身を寄せ通りすぎようとすると――。
「――風間、丁度いいとこにきたじゃん」
俺は丁度よくない。俺みたいに平凡もいいところな男に、スクールカーストの上位から下に声がかかるなんてさ……。
絶対、碌なことじゃないだろう……。だけど、無視しても詰む。
名前を呼ばれて声をかけられたんだから、完全に終わる。
それなら、大したことない――それこそ、都合よく使われるぐらいの要件であれ。
「呼んだ? どうしたの?」
「あんさ。風間って、初日に河村に声をかけてシカトされたんでしょ?」
「なんか他にない? 調子乗ってるエピソード」
「気分悪いんだよね、ああいうの」
超絶、面倒臭い要件だった。
俺こそ気分が悪い。河村さんは俺の中でゼロ点評価だけど……。俺には、意を決して声をかけたのに無視されたって理由がある。
この子たちは、どうせ逆恨みだろ?
「河村さんに何かされたの?」
「……別に? ただ、腹立つじゃん。調子乗ってるの見るのって」
逆恨みだった。逆に見事だな~とか思う。
他者評価に敏感になる気持ちは、俺には分かる。
特に一位と二位では、大きく違うんだろう。
可もなく不可もなしの中で、少し他者からの優先度とかが落ちた俺と彼女たちが違うのは分かる。
だけど、人の嫉妬してる姿を見ると……。自分の今までの姿が、もっと大嫌いになる。
今までの嫌いな自分を、変えなければって思う。
「俺は別に腹が立たない。自分と違う生き物として見てるから」
―――――――――――
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