1章 8話
「よ、幼稚園!? 早すぎ! ずっと続けてきたの!?」
「どうしても、なりたい自分の理想像があったからね! 安くても栄養を意識したり、スリムになるストレッチとかジョギング。肌とか骨格形成も理想へ近づけるように、詳しい人から教わって続けてたんだ」
彼女の言葉が冗談とか見栄とか、嘘じゃないとしたら……。
「うわ……。生まれつきとか言って、なんかごめん。他には、どんな自分磨きしてきたの?」
「立ったり歩く姿勢とか、仕草とか? 動画とか映画観るときは英語にしたり、勉強も――」
「――あ、勉強は大丈夫だわ。というか目標って誰? なんてアイドルか俳優?」
「ん〜……。ごめんね! それは、秘密!」
積み重ねてきた努力の桁が、質が違う。
少しの間の努力なら、俺でもできる。それは多分、俺だけじゃなくて普通は皆そうだ。全く何にも努力したことがない人なんて、いないと思う。
だけどモチベーションを保ちながら、継続して努力を続けられるかと言われると……違う。
彼女は、努力家という面でも――俺から見て満点だ。他の人より格段に優れてる。
少しのノルマ達成でアレコレ騒いで、結果が伴わないと僻む自分が情けない。
情けないとは思いつつも、自分の感情に湧き上がる鬱屈は抑えられないんだよなぁ……。
彼女は、あっという間にクラスの中心的位置に立ってしまった。
転校生へ一時的に話しかけるのとは違う。この短時間で、もう完璧に溶け込んでる。
一個後ろの席から、そんな差を見せつけられるもんだからさ……。
俺は自分が惨めになると同時に、羨ましいと思ってしまった。
こんな嫉妬心を抱く自分が、本当に月並みで……。人間らしいといえばそうなんだろうけど、薄汚れて感じてしまう。
ああ、もう! ネガティブな感情に支配されたらダメだ!
体育の授業に遅刻しないように、体操着へ着替えながら自分に言い聞かせる。
人は人、自分は自分。自分にできる役割を精一杯やれば、きっと結果もついてくる――。
今日の体育は、クラスで男女に分かれてサッカーをすることになった。
もの凄く、嫌だ……。球技とか、チームスポーツとか、本当に嫌いだ。
競技そのものが嫌いなんじゃなくて、自分が競技に混ざるのが嫌だ。
高校生にもなると、現役で部活で続けてるやつ。あるいは小学校やら中学校でサッカーをしてたやつとでは、プレイの差が明らかになる。
いや、経験者と比べて下手なだけじゃない。
現役で鍛えてる運動部とも差がある。
幼い頃のように楽しく無邪気にボールを追いかけて喜んでたときとは、わけが違う。
授業だろうと、試合なら勝負。スポーツだ。
「おい、風間! もっと走れ!」
「お、おう!」
ボールをパスされたと思ったら、上手く止められない。もたついてる間に、運動神経がいいやつに奪われた。
味方は慌てて攻撃のために相手ゴールへ向かってたのを反転。
俺も全力で走って、ミスを挽回しないと!
頑張ってもミスして、ただ追いかけて走ってるだけ……。それが俺の実力だ。
男子サッカー部に所属する味方がボールを奪い返してくれて、俺も再び相手ゴールへ向かう。
すると、運よくと言うか……。
相手ゴールの前という絶好のポジションで、俺はたまたまフリー。
パスがくるか? いや、絶対にくるだろう。
だってボールがきたら、後はゴールに蹴るだけなんだから。
「……ぇ」
そんな状況なのに――二人に囲まれてる男子サッカー部は、俺を見てパスを出すのをやめ、ボールを一回後ろに下げた。
お前には大切なことを任せられないと言われてるようで……屈辱だ。
「……チームプレイの球技なんて、大嫌いだ」
誰にも聞かれないように、呟く。そうでもしないと、悔しさで胸が張り裂けそうだ。
チームプレイだと……自分のできなさを、より肌で感じてしまう。申し訳なさに、罪悪感を感じてしまう。
それからは、でしゃばる真似はせず、ゴールを守るように後ろに下がって傍観し続ける。
たまにコートから出たボールを全力で走り取ってくる。
結局……それが皆から俺に求められ、俺自身ができる役割だ。
ぼんやりと、味方のゴール前でプレーを見てると――ふと女子のサッカーコートが目に入った。
凄いな……河村さん。
―――――――――――
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