1章 7話

 いや……。俺なんかが偉そうに評価はしちゃダメか。

 河村彩楓にとって、俺はゼロ点だっただけだ――。


 その後、始業式でも彼女は壇上に立って紹介された。

 その反応は――もう予想通り。

 中には面白く思わない人たちもいるのが見えた。

 彼女に苦手意識が湧いた俺がスンと冷静になって周りを見てると、元々のスクールカースト上位だった女子を中心に、面白くなさそうな顔をしてた。


「はぁ……。何で順位とか、人との比較をしちゃうんだろ。学校ってのは、劣等感を教えるところなのかよ……」


 嫉妬とか、悪意とか。そんな感情を感じた俺は、自分のおかれてる現状も相まってそう思わずにいられない。

 誰もが他者の目を気にして、他者からの評価を気にする。

 そんな中で人間関係とか立ち回りを勉強する意味もあるんだろうけど……。


 少なくとも、俺は窮屈だ。息苦しい。


 社会に出ても、ずっとこんなのが続くと思うと、泣けてくる。

 河村さんに話しかけて、露骨な無視をされたからかな。心が荒んでる気がする。


 始業式のみの三年生初日は、そうして終わった。

 翌日からも、俺の日常は変わった。

 俺がどうこうじゃないところで、俺を劣等感のどん底に叩き付けてくる。


「……神様に選ばれた人っているんだな。選ばれなかった人がいるように」


 河村さんが、どれだけこれまで頑張ってたかは知らない。

 それでも俺だって、俺なりに頑張ってきたつもりだった。

 それなのに、自分の分を弁えろ。

 お前は別世界の人間だとばかりに、スペックの差を感じさせられる。


 英語はネイティブ。数学もわけの分からない数式を用いて答えを導きだす。

 愛想も人付き合いも……俺以外に対しては、いい。


「河村さん、凄いなぁ……。何でもできるじゃん」


「そんなことないよ? 私、できるように見せてるだけだよ?」


「でた~。そういう謙遜、いいよ……。生まれつき見た目に恵まれてる人には、ウチらの苦労は分からないから」


「本当に、そんなことないんだよ。……これ、ここだけで見てね。私の幼稚園時代の写真」


 クラスの女子と話す声が聞こえてきた。

 チラッと視線を向けると、スマホ画面を見せる河村さんの周りを数人が囲んでる。


「うそ!? これマジで!?」


「小さくて可愛いんだけど、芋っぽい……。隣にいる子がキラキラしてるから、余計に……」


「そうでしょう~? 隣にいる子がいつも、庇ってくれたの。今でもね、私は戒めとしてこの写真を毎日見るの。理想の姿にならなきゃってね!」


「戒めは分かる! ウチも体重増えてるときの写真、あえて残してるし。意識高くて凄いな~。何歳から自分磨きしてたの?」


 思わず視線が向いてしまう。耳が傾いてしまう。


「幼稚園の頃には、かな?」


 衝撃的だった。

 笑いながら軽く口にした彼女の言葉に、思わず「は?」と声が漏れる。


―――――――――――

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