1章6話

「おい、どうした河村?」


「い、いえ……。すいません」


 目がキラキラと涙に濡れて、一筋だけ綺麗な肌を伝って落ちてた。

 何で? 不安だから、か?


「感極まって……」


 感極まって!? わけが分からない。


「そ、そうか。河村の席は、風間の後ろだ。……あの空いてる席。大丈夫か?」


「は、はい! 喜ん――……風間?」


 俺の名前に文句があるのか? おい、クラスの男女。俺に視線を向けるな。視線で穴が空く。

 平凡、平均、可もなく不可もなくから脱却したいとは思ってたけど――こんなのは違う。


 もっと、自分の努力の果てに成果が出てがよかった。

 どう反応するのが正解なんだろう? ど、どちらにせよ……。

 無視とかはダメだ。

 仲良くなれるとは思わないけど、普通以上を目指すなら……。

 怖がらず、声をかけないと!


 彼女は荷物を手に、俺の後ろの席へ向かい教壇から歩いてきてる。

 指先、震えてる? 緊張してるのか。

 それなら、自分のこととか関係なしに……安心させてあげたい。


「河村さん。これから、よろしくな。俺は風間凛空」


 彼女が俺の斜め前の通路で足を止め、まん丸な瞳を向けてきた。

 クラスメイトからの視線とブーイングがうるさい。

 今は、河村……彩楓さんが笑えるよう不安を取り除くことが一番だろ。

 それに、俺みたいな普通のが話しかけてもいいなら、君たちだって話しやすくなるだろうが。


「俺は、本当に大したことはできないけど……。不安があるなら何でも言ってくれ。クラスメイトも、見ての通り喧しいけど、いい人たちばっかだから」


「…………」


「河村さん?」


 彫刻のように数秒固まってた河村さんは、また瞳に涙を滲ませた。

 俺を凝視しながら、そしてハッとしたように――。


「――……ぅっ」


 顔を俯かせ、後ろの席に座った。

 え……。無視、された? 二度目の無視?

 呆気に取られながら、河村さんの方へ顔を向けると――。


「――河村彩楓です! これから、よろしくね!」


「う、うん。私の名前は、あだ名でいいからね」


「まず、あだ名も教えてほしいな~」


「あっ! そっか。ごめん、河村さんが可愛くて、うっかりしてた!」


 俺以外には、めっちゃ話すじゃねぇかよ。あっさり隣の席の女子と仲良くなってるし!

 いや、まだ女子限定という可能性もある。男嫌いとか……。


「お、俺もあだ名でいいから!」


「俺も俺も!」


「わ、分かった。皆、忘れないように覚えてくけど、間違えたらごめんね?」


 可能性は消えた。

 男嫌いでもない、単純に俺が嫌いらしい。初対面でぶつかったから? それだけで無視するぐらい、生理的に俺が受け付けないのか?


「……凛空、泣くな」


「どんまい。普通すぎて空気だったんだろ。誇れよ。空気は必須だぞ」


「誇れるか。泣くぞ」


 いや、本当に。冗談抜きで。なんで初対面から嫌われなきゃいけないんだ……。

 早く馴染めるようにってした言動が、気持ち悪かったのか?

 気持ち悪かったんだろうな……。


 生理的に受け付けないと言う言葉もある。

 普通と言われ続けた俺のルックスが、たまたま彼女には……その辛すぎる評価だったんだろう。

 そうでなければ、あんな露骨に無視されるわけがない。こんな対応をされたら、俺だって気分が悪い。


 いつか、機会があったら――言ってやりたい。

 君より美穂の方が、俺は好きだ。可愛いと思うってさ。

 ファーストインプレッションで百点満点だと思ってた河村彩楓だけど、俺の中では最悪評価だ。



―――――――――――

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