1章 5話
高校生活を締めくくる一年。
三年生の一学期を、身体がだるくて気分も落ちた寝不足状態で――。
ふらつき、気を抜くと眠りに落ちそうだ。
なれない三年生用の下駄箱に自分の靴を入れ、校舎を歩く。
三年生用の教室。
自分の席を探し、荷物をかける。
俺の後ろの席は、まだ来てないか。個人のタブレットに送られてきた新クラス発表でも『未定』ってなってた。
未定って、なんだよ。
「凛空、おはよう。今年も同じクラスか」
「おう、おはよう」
「なんか眠そうか?」
「いや? バイト疲れ。引越ってマジで肉体くるのな~」
危なかった。眠い理由を素直に話して、噂が本人に広まったら……。陰で何を言われるか分からない。
学校生活は、評価を気にして周りの目が気になる場だ。
クラスの人気者とかが羨ましいけど、平凡でいるのも大変だ。
俺みたいに平凡やつは、ちょっとした悪い噂ですぐに学内ヒエラルキー最下層に落ちる。
いじめられて卒業なんて、冗談じゃない。他人の顔色を窺いながら、せめて平凡に……。
一番嫌いな平凡を維持するために、気を巡らせるなんて……。
俺は、何のために学校にきてるんだろう?
内心の葛藤を悟らせないように、新しいクラスメイトと談笑していると、教師が入ってきた。
新しい担任の先生は、進級の挨拶をすると――。
「――今日からこのクラスに、新入生が入る」
は?
この卒業間近の、高校三年生に……転校生?
中学なら転校生は結構いたけど、高校になってから転校生なんて初めてだ。
突然のイベントに、クラス中がガヤつき始めた。
まぁ……。俺にはあまり関係ない。
テストや体育で平均点が上がるにせよ、下がるにせよ。外見の平均が上がるにせよ、下がるにせよ。どっちにしろ、多少の変化しかないだろう。
中の中、その立ち位置は、変えられない。
悔しくて変えたくても、変わらない。
「それじゃ、入ってきて挨拶をしてくれ」
「はい!」
女の子の、声?
それなら、ルックスのスクール内順位が下がって屈辱感に拍車がかかるのは防げるか。
そう思ったが――。
「――可愛い」
「え……めっちゃ綺麗」
眠気が一気に、天上の彼方まで吹き飛んだ。
テンションが高く馬鹿騒ぎをしてた男子も――転校生に目が釘付けで大人しくしてる。
あのときの子だ。
二学期の末、掃除中に廊下でぶつかった子が――うちの制服を着て立ってる。
まさか、あのときは……転校の手続きに来てた、とか?
嘘だろう……。こんなの、劣等感を抱かずにはいられない。
俺から見れば――百点満点の美少女が、教壇に立った。
「初めまして!
笑顔まで、百点満点なのか。
テレビの中で見るアイドルとかに会ったことはないけど……。多分、こんな感じだろう。男女問わず、「めっちゃ可愛い!」、「美少女きた!」、「よっしゃあああ!」奇声をあげてるんだから。
多分、皆の反応が普通なんだろう。
俺は、気持ちが落ち込む。平均でさえ、いられなくなる恐怖が襲ってくる。少なくとも、ルックス面で――学内ヒエラルキートップが、偏差値が……大幅に上がった。
男女とか、関係ない。こんな美少女がいたら俺は普通の生活すらできず蚊帳の外の存在になるかもしれない……。
「……え?」
騒ぎに苦笑してた彼女と目が合った瞬間――彼女の目が見開いた。
まるでマネキンのように、固まってる。
馬鹿騒ぎして喜ぶ男子の中で、逆に俺が目立ったのかもしれない。
しまった……。俺も、合わせて喜んでた方がよかったか?
いや、待てよ。逆に俺は今、普通の反応を脱却したのか?
それがプラス方面なら、俺も皆とは違う方面で驚喜乱舞し――。
「――ちょっ、えっ!?」
な、泣きだした!?
―――――――――――
ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!
本作はカクヨムコン10に参加中の作品です。
楽しかった、続きが気になる!
という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!
読者選考やランキングに影響&作者のモチベーションの一つになりますので、どうぞよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます