1章 3話
返ってきた期末テストの結果を見ながら、復習をしなければ。間違ってた部分を、もう一回調べ直して……。何とか、もう一回同じテストをしたら平均点から脱却できるように。
「ただいま」
自宅マンションの玄関から、母さんの声が響いてきた。
「おう、お帰り~」
二十二時。今日も母さんは、残業だったか。せめてサービス残業じゃないといいけど。
そう思いながら、勉強を中断してドアを開ける。
「
「サバの味噌煮定食」
「普通ね」
「ほっとけ」
母さんまで普通とか、言うな。
息子が気にしてることだろうが。
「だけど母さん、鯖の味噌煮大好き~。ありがと、凛空!」
「いいから、さっさと風呂入ってこいよ。……味噌汁、温め直しておくから」
「もう~反抗期かと思いきや、デレるなんて! やるわね」
「後ろから抱きついて体重をかけるな。重い」
母さん、疲れすぎてテンションおかしくなってるな。
冷めた料理を温め直してく中、ふと不安になる。
俺は――何者なんだろう。何者になれるんだろう。何か面白い将来や未来はくるのか?
「せめて何か……。同じような日常を繰り返すのを、やめたい」
一番なんて、望まない。刺激的で、誰かより少し優れるとか……。
努力の結果が実るような、そんな非日常がほしい。
頑張ったなら、それ相応に変化がほしい。
無いものねだりをした後、明日の朝起きてから洗濯、料理、掃除と学校へ行く前に効率よく家事をこなす順番を考える。
無いものねだりは虚しい……。
もう間もなく春休みだ。
その間にできる短期バイトも申し込んである。
そうすれば美穂のために何かプレゼントも渡せるだろう。
「……それだけが、楽しみだなぁ」
喜んでくれるかな。
どう渡せば、喜ぶサプライズになるだろう。
いや、すぐに渡さず、ご機嫌取り用に温存しておくのもいいかな?
そうこう考えてる間に、あっという間に平凡な高校二年生三学期が終わった――。
短い春休み。
朝と夜は冷え込み、昼には気持ちいい陽気が肌を撫でる季節だ。
だけど俺は今、真夏も真っ青なぐらい汗だくになってる。
「高校生、そっち落とすなよ? 絶対ぶつけんなよ?」
「はい、気をつけます!」
冷蔵庫を抱えながら、階段を上る。
俺の住んでる埼玉県上尾市内で、高給で短期のみ可能な引越しバイトが募集されてたのは幸いだった。
だけどトラックに荷物を運び込むにしても、新居に運び入れるにしても、だ。
低階層アパートの現場なので、エレベーターもない。せめてエレベーターがあれば楽なのに……。
「ご苦労様ぁ~。お仕事、早いわねぇ」
「ありがとうございます! お邪魔しております!」
立ち合いをしてた母さんより少し年上ぐらいの女性に労われ、頭を下げる。多分、この部屋に新しく住む人だろうな。
アルバイトとはいえ、引越業者の評判に関わる。キビキビと動いて、ハキハキと挨拶をしないといけない。
停められたトラックから、『本類』と書かれた箱を取り出す。
うげ……。これは外れを引いたなぁ。
本の詰まった段ボールって、こんなに重いのか。
腕がパンパン、足が震えて腰も折れそうだ。
それでも何とか、問題なく手早い作業速度についていく。熟練の先輩たちと比べたら、やっぱり自分は足手まとい……。
いや、人と比べるな。そんな暇はない。自分のできること、やるべきことを精一杯やれ!
そう鼓舞して、何とか作業を終えてトラックに乗り込む。
「お疲れ、じゃあ次の現場に移動するぞ。シートベルトはつけたか?」
「はい、大丈夫です!」
「根性あるな。前の高校生君に比べたら速度は普通だが……。そつがないのはいい。頑張れよ」
「……はい!」
ここでも、普通。無難にそつがない……か。
人の評価が怖い。もう、何をしても他人と比べられる社会が怖い。
―――――――――――
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