1章 100点の君と優しい嘘を描こう
1章 1話
人間同士の平等なんて本当の意味では、ありえない。
人が複数いるからには、必ず優劣が生まれる。
「
「先生。……まぁ、そうなりました」
「まさか、いじめか?」
「違います。……ただ、惨めです」
箒を手に、慌てて笑みをつくる。
先生は少し怪しむような表情をしながらも「何かあったら、遠慮なく相談しろよ」と廊下に戻った。
まさか、自分が三学期末テストの点数勝負で負けたから、罰ゲームで掃除をさせられましたなんて、被害者のような告げ口はできない。
いくらなんでも、情けなさすぎる。
「はぁ……」
俺を含めた五人ぐらいで競った全教科の合計点数勝負。結果表が映し出されたスマホを見て、思わず溜息がでる。
負けるだけなら、別にいい。
俺がとんでもなく嫌なのは、だ。
「全教科……ほぼ平均点ってなんだよ」
箒の柄に頭をつけ、ぼやいてしまう。
何度スマホから目を逸らしても浮かんでくる。
先生が伝えてきた各教科の平均点。それとほぼ同じ点数に、俺の点数は常にある。
全教科、ほぼ六十点。可もなく、不可もなく。
あまりにも一致率が高くてさ、一緒に賭け勝負をしたやつらからも「
そんなこと、言われなくても分かってるんだよ。
俺が何にも特筆して勝るものがない、凡人だってことぐらい。
容姿、学力、トーク力など。どれだけ綺麗事で飾っても、人間社会なんて競い合いの仕組みだ。
それは小学校、中学校、高校と、年齢を重ねるごとに激しく顕著になってきた。
この先も永遠にそう、むしろ激化していくだろう。
可もなく不可もない人間。
どうせ中の中が精一杯の俺。
自分に自信なんて、あるわけない。
「あるのは退屈な日々への鬱屈した思いと劣等感だけだよ……。畜生」
色んなことに点数がつけられ、自分がどの位置にあるのか測るのは仕方ない。
だけど、そんな中で自己肯定感を得られるのなんて、上に位置するような一握りだけだ。
俺の自己否定が問題なのは分かってる。自己肯定感の低さが大問題だなんて自覚してる。
それでも、どうしようもないんだ……。
上を見ればきりがない。
競争社会やら、ネットでカースト上位の情報が山ほど溢れる中、自己肯定感が上がるわけもない。
身近な生活でも、自分が嫌になる場面はゴロゴロとある。
面倒だとは思いつつも、こうして便利に利用されてる間は自分が有用な存在だって気持ちになれる。
必要不可欠って程、代わりが効かない有能な存在じゃないのは辛いけどな……。
毎日毎日、競争社会の中で性根が捻り曲がる一方だ。
「……せめて何か、何でもいい。一つでも他人より優れたものがほしかったなぁ……」
優しい人と思われようとすれば、便利で都合のいい人になる。
今日だって、急なアルバイトが入ったからと女子に掃除当番を代わってくれないか頼まれて……。
いい人の評価とか普通にクラスメイトと会話できる立ち位置失うのが怖くて断れない俺は、トイレ掃除まで一人でやる羽目になった。
短い春休みが明ければ、俺も高校三年生になるってのに……。
「昔っから、ずっとこうだな、俺は……。多分、これからも」
どれだけ努力しても、平均点。必死に頑張っても評価側の人からは、もう少し頑張れと言われ続ける。
「……マイナス思考ばっかりってのも、ダメだ。あ~、さっさと終わらせよう! よし、やるぞ!」
誰もいない教室に、俺の気合いが入った声が響いた。
腐ってても仕方ない、か。
教室をキビキビと掃除をした後、トイレに向かうと――。
「――きゃっ! あ、ごめんなさい」
「あ、いや。俺の方こそ――……」
廊下の角から飛び出してきた女の子とぶつかって、思わず言葉が出なくなった。
モデルのように整ったスタイル。
襟足が少し長い、快活さと元気さが感じられるショートウルフカット。
横からでも――横からだからこそ強調されて映る、立体的な顔立ち。
まるで外国人のようだ。
ハーフか、クォーターか?
外見に関しても、ほぼ可もなく不可もない六十点の俺とは雲泥の差だ。
理想的な……。
少なくとも、俺にとっては満点な女の子がいた。
他校の制服を着てる? 何で、うちの高校に?
それに、何でこの子は――目に涙を浮かべて、唇を震わせてるんだ?
「あ、あの。俺、結構勢いよくぶつかりましたよね? 大丈夫でしたか?」
「……やっと、伝えられる……」
「え? 伝える?」
誰に、何を伝えるんだろう。
俺が尋ねようとすると――。
「――え、あの!?」
―――――――――――
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60点の俺と100点の君がたむける嘘 長久 @tatuwanagahisa
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