第十三話

 アンリ―ナは疲れた様子で頬杖をついていた。そして心底不愉快ですと言った様子ではぁぁぁぁと息を吐いた。そこに女性体のシロコがトレーにスイーツとティーカップを持ちやってきた。


「大変そうですね?」

「大変もクソもあるか、迷惑だわ。入学してからそんな立ってねェってのになんでこんな事になる?」

「人望?」

「アンリ―ナちゃんは人望ありますがァ??? 最高の駒を手に入れたカワイ子ちゃんですよォ???」

「そういう人間性が悟られたのでは?」

「ア”ァ”?」

「カワイ子ちゃん剥がれてますよ~~~」


 フィーリアからの八つ当たりから一ヵ月が経過するか否かの合間、アンリ―ナは迫害を受けていた。最初はアンリ―ナ自身「最底辺だから今は仕方ないよなァ」と割り切っていたが、どうもそういう事理由のない遊びではなかった。

 一方的に好き勝手されるのは物凄く癪に障っていたので、アンリ―ナは弱みを握る為に情報を魔法で集めた。

 ただ情報を絞らず集めてしまうと要らない物まで集めてしまうので、アンリ―ナは心当たりしかないフィーリア関連の情報を探った。 

 

 結果。フィーリアがアンリ―ナを迫害させている事実が現れた。

 か弱い少女のように振る舞いアンリ―ナが全く知らない内容を相手に吹き込み、同情を誘う。そうして仲間を増やしアンリ―ナを迫害させ、自分は高みの見物をする。

 アンリ―ナがそんな情報を初めて知った時、妙な違和感を覚えた。


 まるで、自分がかつてしていた行為のようだ――と。

 



「甘いものでも食べて気持ちをリラックスしましょ?」

 

 不愉快な出来事で苛立ちが募る中、シロコはクスクスと笑みを絶やす事なくティーカップとスイーツをアンリ―ナの目の前に置いた。

 シロコとは反対にムスッと不機嫌な様子でアンリ―ナはシロコを睨みつけ、また深い息を吐いた。


「ため息ばかりしては幸せが逃げていきますよ~?」

「俺にシアワセなんて訪れる訳ねェだろ」

「自虐的~」

「事実だわ。そも、俺は暗殺部隊を従えてた大幹部だぜ? 幸せなんて訪れねェし、むしろ奪う側ですぅ~」


 ケラケラと笑うアンリ―ナにシロコは驚く事なく、トレーを器用に指先で回しながら疑問を口にした。


「自ら殺されるように仕向けたご主人様が暗殺部隊の大幹部には見えないんですよね~。そうだ! 前に聞けなかったのですが、どうしてそんな事したんですか?」


 以前アンリ―ナから暇だからと語られた前世の最後を唐突に思い出したシロコは首をコテンと傾け問いかける。

 感情のない黄金色の瞳にアンリ―ナが映り、トレーの回る音が部屋の中をこだまする。

 アンリ―ナは頬杖をやめ何の感情も見えない青い瞳でにっこり笑った。


「飽きたからだけど?」

「飽きたから?」

「それ以外に何がある? 俺という存在に飽きた、終わりにしたい。でもあっけなく終わるのは勿体ない。そこで丁度よく俺が滅ぼした村の生き残りが勇者として活動してるって知ったから利用した」

「”アレだけ”の事をして?」

「何処まで知ってんのか分かんねェけど、アレだけの事をする価値があったんだよ。おもしれェだろ? 今まで支えた仲間の一人が実は仇だった! なんて、さァ?」


 ケラケラと邪悪な笑みを浮かべ、感情がない瞳で語るアンリ―ナ。そして唐突に両手を広げ大声で笑う。

 

「ま、それもこれもあのクソ女神がぜんっぶ台無しにしたんだけどなァ! いいさいいさ俺は優しいから。代わりに新しい玩具を用意してくれたしィ? フィーリア・コルネ、俺と同じ転生者! しかも俺の知らねェ事を知っている! これ以上におもしれェもんはねェなァ!」


 前世で悪者をしていたアンリ―ナはそうそう折れる事はない。むしろ歓喜を感じていた。

 だがそれはそれとして不愉快ではある。

 

 ――ここからフィーリアの心を折っていくの絶対楽しぃ~~~!!!!

 

 悪い考えにアンリ―ナの笑い声が更にこだまする。

 シロコは心が読めるのでその事に特に何も言わず、代わりに辺りを見渡し心配げに肩をすくませた。


「そういえばこの寮って壁薄かったですよね? ご主人様こんな大声だして大丈夫ですか?」

「対策済みですぅ~~~~」

「流石ご主人様!!! これを見越して対策をしているなんて、流石見た目に似合わず性格が最悪ですね!」

「一言余計」

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