第十二話

「——あぁ、ごめんなさい。貴方があまりにも可笑しな事をいうものだから、つい汚い言葉が。フィーリアさん、きっと貴方疲れていると思うの。主に頭が」


 怒り混じりの煽りの後、アンリ―ナはクスリと笑みを浮かべながらフィーリアに謝罪した。勿論そこに謝罪の気持ちは一切なく冷めた目でフィーリアを嘲笑う。

 フィーリアはアンリ―ナの言葉に顔を歪ませ醜い表情をする。拳を握り絞め、今すぐにでも襲い掛かっても可笑しくない状態でフィーリアは怒りを発する。


「やっ、ぱり、やっぱり、やっぱり!!! アンタはアンリ―ナじゃない! アンリ―ナは、アンリ―ナはそんなキャラじゃない! ああ、あああ、あああなんでアンタなんかがアンリ―ナになるの!? アンタでいいならアタシだっていいでしょ、アタシは誰よりも頑張って来たのに!!」

「先程から貴方が何を言っているのか全く理解できないわ。本当に大丈夫?」

「アンリ―ナはそんな口調じゃない!」

「私はアンリ―ナなのだけど…………?」


 怒り狂うフィーリアに、アンリ―ナは頭の可笑しい存在の勢いに思わず後ずさった。

 フィーリアは目をこれでもかと開きアンリ―ナを指差す。そして発される憎しみの言葉。


 ——流石に引く。というか”アンリ―ナ”がもう一人いるような発言が気になるなァ。それに異世界転生、逆ハーレム、イケメン、主人公、キャラってのがよくわかんねェ。転生者って言葉を発してたから、こいつもあのクソ女神に会ってるのか? それで二度目の人生を――ってそれならなんで俺に突っかかんだ?


「許さない、許さない、許さない」


 フィーリアの言葉を元に情報を組み立てていると、フィーリアが恨み事をブツブツと呟き出した。アンリ―ナはフィーリアの様子に、これ以上ここにいるべきではないと危機感を感じ言葉を発した。


「ごめんなさい、私もう行くわねっ」

「っ待ちなさい、待て!!!」


 相手の反応を待たずアンリ―ナはその場から勢い良く走り出す。そして背後から聞こえる焦った声と追いかけてくる音。


「来るんじゃねェよ…………『accélération(加速)』」


 追いかけてくるフィーリアを一度確認してからアンリ―ナは魔法を使う。あんな奴がいるなんて思わねェよ。と予測していた自体貴族&奴隷制度とは全く違う別件にアンリ―ナは舌打ちをした。

 フィーリアの気配が消え去るまでアンリ―ナは動き続ける。走り続けやっとフィーリアが視認出来なくなった瞬間アンリ―ナは魔法と動きを止めた。


「なんなの……一体。シロコ、いる?」


 一先ず去った災難にアンリ―ナは演技を始める。周囲を見渡し自分が今いる場所を確認してアンリ―ナはシロコを呼んだ。

 するとボンッと何もない場所で煙が発生した。突然現れた煙にアンリ―ナは驚き警戒の構えをとった。

 そしてゆっくりと煙が消えていくと、そこには先程までいなかったシロコがアンリ―ナの傍にいた。


「呼びました?」

「え。……ええ、呼んだわ。部屋まで護衛してくれない?」


 テメェのかよ。と呆れながらアンリ―ナは言う。

 シロコは最初に出会った青年の姿で「お任せを!」とにっこり笑った。それから周囲を見渡し、首を傾げた。


「そういえばフィーリアさんはどうされたんです?」

「……シロコ、貴方心読めるでしょ?」

「読めますけど。あ、なるほどそういう事ですか」

「そういう事」


 そうしてシロコに内心で事情を説明し、アンリ―ナは深いため息を吐いた。対するシロコはアンリ―ナの話に、何か思う事があるのか考え込む仕草をした。

 アンリ―ナはフィーリアに警戒しつつフィーリアとの会話を思い返す。




『アンタが先に”アンリ―ナ”になるから、アタシ主人公になれなかった』

 ――俺が先にアンリ―ナになったからなれなかった、か。まるで物語の登場人物に憧れる子供みてェだな。………………物語の登場人物? 


 フィーリアの情報を元に考えていると、ふと何かに気づいたアンリ―ナはハッとした。


 ――あいつの言う”アンリ―ナ”は物語の登場人物。キャラの意味は登場人物って事か? ……異世界……異なる世界……物語の中に転生?

「まさか、ね」


 己の情報を元に照らし合わせた答え。だが確信が持てずアンリ―ナはその考えを捨てた。

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