第十話

 アンリ―ナの青い髪がそよ風に揺られる夕暮れの空。そして背後から聞こえる足音にアンリ―ナは振り返った。


「リーナ」

「……ノエル?」


 振り向いた先にはアルノエルが心配そうな表情でアンリ―ナに近づいてきていた。


「どうしてこんな所に? ここは灯りがないから危ないよ」

「その言葉そっくりそのままお返しするわ。でも心配しないで、私の目的は見つかったから」

「目的? ……もしかして、俺——私を探していたのかい?」


 二人が今いるB・C寮とD・E寮の丁度中間に位置する場所。周囲に灯りはなく、夜になれば何も見えなくなる程だった。

 初対面と同じ口調で声をかけるアルノエルにアンリ―ナはクスリと微笑んだ。


「あら、私と対等に話して下さらないの?」

「ん、あぁ。すまない、その……はは」


 視線を逸らし疲れた声で乾いた笑いを出すアルノエル。よくよく見ると彼の服、髪が少し乱されていた。

 それでも多少整えはしたのか、傍目で見る分ではすぐに気づく事は困難な程度まで清潔だった。

 

 ——大体予想はつくけど、確認するかァ。


「どうしたの?」

「君は、俺と対等でいてくれるか?」

「ええ、それがどうしたの? 何かあったの?」

「——実は……」


 対等という言葉で肩の荷が下りたのかはぁぁとため息を吐くアルノエル。

 そうして語られるアンリ―ナの予想通りの話————。



<>


『C'est la bénédiction et le miracle de Dieu!』

(これ成るは神の祝福・奇跡なり!)


 詠唱を終え部屋が赤い光で包まれる。そうして現れた召喚獣に一人の審査員が興奮した様子で椅子から立ち上がった。


「————こ、これはぁぁぁ!!!!!!」

「綺麗だ……」

「待て待て待て待て待て!!! まさか、まさか生きている内にこんな、この方を見れるなんて!!!!!!」


 息を荒くさせ審査員は召喚獣に近づく。

 周囲の人間を全員置いて叫ぶ審査員に、「お前何してるんだ戻れ!!」と声がかかる。


「アーーーー!!!!!! すっごいこれが伝説の最上級聖獣の内の一体フェニックス!!! 死してなお蘇る伝説の鳥!!!! あああああ生きててよかったここで働いててよかったこんな存在しているか分からない伝説の一体に会えるなんて!!!!!」

「おいお前戻れ!!! おい!!!」

『キュルルル……』

「好き!!!!!」

「おい誰かそいつ追い出せ!!!!」


 興奮する審査員を数人で部屋の外に追い出す光景にアルノエルは困った表情をした。

 フェニックスは目の前の騒動はどうでもいいのか、炎の翼をくしくしと突いてからアルノエルに頬擦りをした。


「えっ?!」


 全身が炎で形作られたフェニックスの体。熱いと思っていたアルノエルは驚いて声を出しフェニックスから距離を取ったが、触れた部分が一向に痛くなる気配はなかった。

 フェニックスはコテンと首を傾げ鳴き声を発する。アルノエルはゴクリと息を呑みフェニックスの体に手を差し出した。


『キュルルル』

「あつく、ない。……よろしく」


 全く熱くない、むしろ心地いい温度がアルノエルの手を暖めた。それに自然に頬が揺らんだ――その時。


「魔力量999……」


 誰かがそんな事を呟いた。





「それから大変だったんだ。あの一瞬で皆俺を持ち上げるんだ。教室に行って自己紹介をしようとしたら魔力量を話されて……それから………それから………………」


 ——ウッッワァ……。



 アルノエルから語られた話にアンリ―ナは内心で滅茶苦茶引いた。アンリ―ナの予想は当たっていた、当たっていたのだが、興奮する審査員、教室でバラされる魔力量の話は予想出来なかった。

 誰も彼もがアルノエルを誉めたて、それが一人のなるまで止む事なく疲れてしまったと予想していたが、想像以上の話だった。


「一番来るのが、『流石聖獣ディナルド家!!! アルノエル様も同じ気質をお持ちとは、素晴らしい!!』なんだ。クラスメイトから言われてしまった……俺は皆と対等になりたかったのに……友達になりたかったのに………………」


 地面に座った状態でアルノエルは顔を俯かせる。それにアンリ―ナは何も発さず、背中に手を当て慰め続けた。


 ——哀れだなァ……イヤァ、本当に……。


 流石にアルノエルの話に、ほんの少しだけアンリ―ナは哀れんだ。

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