第九話

「てめェの変化へんげは魔法じゃねのな」

「それは少し違います。ボクの変化へんげは狐専用の妖術——魔法です」

「魔法なら俺も扱えるはずだろ。けどてめェのそれ全く読めねェんだけど?」

「特別ですので」

「あぁそう」


 椅子に座り手帳を捲りながらアンリ―ナは演技をやめ足を組んだ状態で話す。それをシロコは部屋の掃除を続けつつ言葉を返す。

 シロコの姿は着物の服から執事服へ、地面に着く程の長髪が短髪へと変化していた。そんな姿でせっせと部屋中を箒、雑巾、水で綺麗に洗い流す。外ではベッドのカバー、マットレスが干されていた。

 

「なァ掃除魔法使わねェの?」

「一瞬で綺麗にするより、念入りに綺麗にした方が気分がよくなるでしょう?」

「ぜってェ魔法使った方がいい。それに外見ろよ、暗いぞ。俺が寝る時どうすんだよ」

「それまでには間に合わせます。暇でしたら学園内を散策してはどうでしょう? ご主人様の化けた性格ではそうするでしょう?」

「なんで分かんだよ。今日会ったばっかりだろうが。キッショクワル~イ!!!」


 善性アンリ―ナの設定を突っ込まれ、アンリ―ナは吐く仕草をする。

 シロコはそんな仕草を完全無視し掃除を続ける。心なしか瞳がキラキラと光っていて掃除を楽しんでる? とアンリ―ナは思った。


「つまんねェなお前」

「逆にご主人様は面白いですよね。偽って偽って偽って、気づかない」

「ハァ???」

「あ~これはまだ言う事じゃなかった~シロコさんやっちゃいました~~~~」


 箒を動かす手を止め空を仰ぐシロコ。そこから発される棒読み発言。

 化けるの得意って言ってた癖に誤魔化すの下手くそか?? とアンリ―ナはじとぉっと冷めて視線を向ける。


「そんな事より暇なら散策でもしてはどうでしょう?」

「どれだけ外に行ってほしいんだよ」

「正直に言うとですね。掃除の邪魔です」

「それは最初から言えよ」

「いけるかな~と思いまして」

「アァ? 何がいけるかな~だ。おい」


 シロコに圧がかかった声でアンリ―ナは顔を顰める。それからため息を吐き、アンリ―ナは部屋の外へと向かう。


「ご主人様とボクのリンクは繋がってますので何かあれば呼んでくださいな」

「はいはい」

「ちなみにご主人様と話していたアルノエルも散策してますよ」

「なんでノエルの事知ってんだよ。てめェその時いなかっただろうが」


 アルノエルと一緒にいたのは召喚儀式が始まる直前まで、その後は一度も再会しておらずシロコがその事を知っているのは可笑しい。とアンリ―ナはシロコに問いかけた。

 シロコはアンリ―ナの言葉にごく自然に言葉を返した。


「リダー様」

「あ~はいはいはいはいクソ役立たず女神ね」


 アンリ―ナは親指を下に向け善人に全く見えない悪い顔をした。そのまま扉を勢いよく閉じよう――としてハッとしたようにゆっくり扉を閉めた。


「あの一瞬で化けるの本当凄いですね~」


 扉が閉まる直前に見えた柔らかな笑みにシロコは感心した様子で呟いた。

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