第七話
アンリ―ナが教室に向かった時にはすでに沢山のクラスメイトがいた。
皆の反応は現状に怒るか、嘆くかの二種類だった。
調子が戻って来たアンリ―ナは、そんな彼らの様子を見て内心で大爆笑した。
そんなアンリ―ナは鍵を持ってE寮へ向かっていた。
E寮は全ての宿泊寮の中、本校舎から一番遠い場所にあった。最初の洗礼が召喚儀式であれば二度目の洗礼は寮——と言ったように初日から差別の嵐は止まらない。
選ばれた者しか泊まれないような全てが最高級なS・A寮。一般市民が泊るどこにでもあるようなB・C寮。最低限整えられているだけの貧乏でも泊まれるD・E寮。
各寮の中で卒業まで泊るのは、最底辺のランクの者からすれば耐え難い事であった。
奴隷そのものと約束された時点で人権はないというのに、住む場所も小汚く手入れがされていない宿泊寮。数日で参ってしまっても可笑しくない環境だった。
ギシッ、ギシッと木の板を踏む音が寮の中に響き渡る。耳を凝らせば風の音が聞こえ、アンリ―ナは情報通り最低限の手入れしかしていないんだなァと思った。
壁もボロボロでひび割れがあり、電気もチカチカと点滅している光景は何が出ても可笑しくない雰囲気そのものだった。
「ここね」
アンリ―ナは鍵に記された部屋番号を確認して己の部屋の鍵を開けた。
ギギギッと不快な音を立て少し重たい部屋の扉が開かれる。
「っけほ、うわァ、埃が凄いわ」
中は換気がされていないようで埃だらけだった。床も置かれている家具にも埃が被っておりアンリ―ナは急いで備え付きの窓を手を伸ばす。
そして窓を開けようとしてアンリ―ナは気づく。
——やばいめちゃくちゃ硬ェ。
ゴミが溜まっていて窓が全くと言っていい程開かない。力を込めてもうんともすんともいわない。
このまま奮闘すれば体力だけが削れていくのは目に見えて分かるので、アンリ―ナは魔法を使おうと鞄に手を伸ばそうとした。
「はぁ……」
疲れ、呆れでため息が出てアンリ―ナは手帳を取り出そうとした瞬間、窓が勢いよくガラッと開いた。
その時見えた人の手にアンリ―ナは勢いよく背後を振り返った。
そこに居たのは白い髪に黄金色の瞳を持った長身の男性だった。
——!!? さっきまで人の気配なんてなかったぞ!? いつの間に!!!?
アンリ―ナは突然現れた不法侵入者に驚きすぎて身動き一つ取れなかった。
呆然と口を開き目を見開いた状態で不法侵入者を見ているアンリ―ナに、男性はにっこりと笑った。
「これでいい? ――ご主人様?」
「————ハ?」
「あれ? 開けるんだったんですよね? ボク間違ってないですよね?」
「ハ?」
「裏出てますよ?」
——ハ?
アンリ―ナは動揺によりまともな思考を紡げなかった。長身の男性はそんなアンリ―ナに首を傾げ「ご主人様ー?」と呼びかけ続ける。
混乱・困惑・驚愕——アンリ―ナはぐるぐると目の前の存在に対し思考を巡らせる。だがまともな言葉は一つも浮かばずアンリ―ナは身動き一つ取れないまま男性を見ていた。
「ご主人様、もしかして男にトラウマが!? 折角力持ちな男に
「は、あ、え、おまえ、なに……」
多少時間が経った事でアンリ―ナの動揺が少し収まり男性に対し疑問を投げかけた。
男性はきょとんとした表情を見せた。それはアンリ―ナの言葉が理解できていないよりかは、何を今さらそんな事を、といった疑問の表情だった。
そして男性が自分自身の体をじっくり見てからアンリ―ナの言葉の意味が理解出来たのか、ぱっと明るい表情へ変化した。
「ボク、ご主人様の使い魔、その名も白狐さん! 気軽にシロコさんって呼んでくださいな、ご主人様!」
——????????????????
笑顔で告げた男性の自己紹介。アンリ―ナは理解が追い付かずまたまともな思考が紡げなかった。
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