第六話
——うーんうーんうーん?
何故善人になりたくないのか、そもそも何が理由でそうなったのか。アンリ―ナの頭に疑問が浮かんでは消える。思い出そうにも思い出せないそれにアンリ―ナは内心不機嫌になった。
そうして注意散漫となってしまっていたアンリ―ナは何かに勢いよくぶつかった。
「わっ!?」
「きゃぁ!!?」
ぶつかった衝撃でアンリ―ナは地面に尻餅をついた。その時に聞こえたドサッと鞄が落ちた音、己ではない誰かの悲鳴に、アンリ―ナは痛みで一瞬閉じていた目を開きぶつかった者を見た。
そこにはアンリ―ナの青い髪とは対照的に明るい桃色の髪を持つ少女が倒れていた。いったぁ……と痛みに呻く声にアンリ―ナは慌てる演技をして少女に声をかけた。
「大丈夫!?」
「うぅ~大丈夫……貴方こそだいじょう………ぶ」
少女は倒れた際に腰を打ったのかさわさわと腰を撫でる。そして顔をアンリ―ナに向け、呆然とした。
目を見開き、口をわなわなと震わせている少女の可笑しな様子にアンリ―ナは首を傾げた。
「だ、大丈夫?」
「あ、んりーな?」
「え?」
少女から発された己の名。アンリ―ナは差し出していた手を止め驚いた。
目の前の少女に前世を含んで心当たりは一切なく、そもそも貴族でもない人間の名を知る必要性はほぼないと言って等しい。
なら今年の新入生での情報を盗み見たのでは? と内心考えもしたが、アンリ―ナが探った時には詳細な情報は一切なく、あったのは名前だけであった。
名前だけというのに目の前の少女は己がアンリ―ナだとすぐに見抜いた。
——何者だこいつ。
警戒心を抱きながら少女に問いかけようとした瞬間、少女は勢いよく立ち上がった。
「あ、ああううん何でもないよ! ごめんねぇ怪我してない? 大丈夫そうだね、じゃああたしもう行くね急いでて!!」
「えっ、ちょっと待って!!」
アンリ―ナの制止の声を聞かず少女は振り返る事なく走り去っていった。行き場のなくなった手は空を掴む事しか出来ず、アンリ―ナは呆然と少女が去って行った先を見た。
「……貴方、は一体」
——駒か、害か。調べねェとなァ。
アンリ―ナは不安げな演技をしポツリと呟いた。
そしてじわじわと感じ始める視線の圧。どうやら先程の出来事が予想より目立ってしまっていたらしい。
意図してやった事ではない出来事にアンリ―ナは強い不快感を覚え、鞄を拾い上げそそくさとその場から離れた。
——アンリ―ナの印象悪くなったらどうしてくれんだあの女。
視線を軽くずらし、少女に対し第一印象クソ。と文句をつけた。
「アンリ―ナ、アンリ―ナだよね、アレ。だって白狐いたし髪が青かった。あれが……アタシが入るはずだった『このゲームの主人公』……」
人気のない場所で誰かがそんな事を呟いた。
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