第四話

 事の発端転生前——。


「————と、言う事で貴方に二つの道を授けましょう! 選択肢その①! 転生特典能力。なんでも好きな能力を一つ差し上げます! ですが転生先は選べません! 選択肢その②! 転生先を選べます。ですが能力は渡しません! さぁ、好きな方を選んでくださいっ!」

「いやだから転生自体要らねェって言ってんだろうが頭に蛆でも沸いてんのかクソ役立たず駄女神が」

「っ~~~なんなんですか、何なんですか!? 折角私ここまで優しく説明してるのに! それに、転生ですよ!? 転生! 人生のやり直し!!! なのに、なのに……!!! もう怒りました、怒った!! 私の好みで転生させます!!!」

「だから転生しねェって言って――――」

「問答無用ッッ!!!!!!!」




 十年後——。





「え、あれ、魔法……? え、あれ、うそ……」

 ——ハ? 頭ん中に仕組みが浮かぶんだけど。あれの使い方もう分かったんだが? てか俺の所とほぼ同じ仕組みじゃねェか。なんで……だ…………あ、アレか……転生、特典……?


<>


 開会式は終わり、皆一様に召喚儀式が行われる場所へと向かう最中、アルノエルが不安気にポツリと呟いた。


「運命の時が目の前まで来てるって自覚すると、散々聞いてきたあの話が今更になって怖く思えてきたよ……」

「もう他人事で済ませれる問題じゃないもの。誰だって怖いはずよ」


 眉を下げているアルノエルの様子に、アンリ―ナは冷静に言葉を返す。本当ならばアンリ―ナも怖がるように――と考えたが、アルノエルの性格を考え「困っている人を助ける善性アンリ―ナ」という基盤の設定から「頼れる人」という性格を追加した。

 今になって新しい性格を追加する事はやりきれるかどうかアンリ―ナとしても難しいラインだったが、困っている人を助ける=頼れる人と取れるのでは? という思考になったので遠慮なく追加する事にした。

 そんな言葉を聞いたアルノエルは首を少し傾げた状態でアンリ―ナを見た。


「そうは言うけれど、リーナが怖がっているようには見えない」

「……私だって怖いわ。でも、怖がってもどうしようもないでしょ? これは、諦めです」

「諦め……」


 ——俺自身魔力量をある程度把握してても、ここでは底辺の魔力量です――とかあってもなんら可笑しくねェ。普通に諦めます。————マァ? 底辺になっても下剋上するけどなァ!!! 奴隷になるのはクソだがァァ??? 見下した奴を見下せるようになる!!! っつう最高に興奮出来る要素があるからなァ!!!!! アッハハハハハハハハハハ!!!!!!!!


 諦めの言葉は事実だった……が、アンリ―ナは捻くれた性格のまま二度目の人生が始まったので、最底辺から成り上がれるという可能性を想像し気分は一瞬にして上昇した。だが表情にはそんな様子は一切出ていない。前世で勇者を己の元に辿り着かせる為に学んだ演技がここでも発揮されていた。やろうと思えば内心も「善性のアンリ―ナ」に出来たが、流石にどちらも同じなのはツマラナイとアンリ―ナは思っているので、内心だけは前世の自分のままだった。


 周囲の空気が重い中一人だけ能天気なアンリ―ナ。前方に複数の列が見えた頃アルノエルが視線をアンリ―ナに向け不安げに発した。


「……リーナ。もし、同じじゃなくて、私……俺と対等でいてくれるか?」

「! ええ、勿論。私からもお願い」

「勿論。……またな」

「また」


 ——素出たなァ。そこまで気を許したか。

 

 召喚儀式の部屋は複数あるようで、二人は別々の列へと並ばせられた。離れてくアルノエルの後ろ姿を見送り、アンリ―ナは自身の列に視線を向けた。

 一人、一人、また一人部屋の中に入っていく。だが部屋から出てくるものは誰一人としていない。部屋の先に別の道があるんだろうなァとアンリ―ナは思った。同時に人々の反応を見れない事に勿体ないとも感じた。反応次第で内心で大声で笑ってやろうとワクワクしていたアンリ―ナの考えが無駄になった。


「次、入れ」

「はい」


 もったいねェ~~~~!!!!! と悔しがるアンリ―ナは部屋の中へと入る。

 

「っ! こ、これが、最新の召喚儀式……!」


 部屋には六人の審査員にごてごてとした機械が置かれ、中央には魔法陣。アンリ―ナは息を呑み、緊張の演技をした。


 ——は~~~~??? これが? これが、最新の召喚儀式ィ? 何処がだよ。この程度誰でも出来るもんじゃねェか。あ、もしかして最新ってそういう意味ィ??? ウワァスゴイナァァ! 凄く期待外れ。


 てっきり誰にも真似する事は出来ない最上級の魔法陣と考察したアンリ―ナだったが、実物は仕組みをしれば誰でも作れる初級~中級程度の魔法陣だった。

 アンリ―ナの気分は一瞬にして最底辺まで低下した。


「では、召喚儀式を始める。この魔法陣の上に貴様の血を垂らせ」

「はい……いっ、た……」


 審査員からナイフを渡され、アンリ―ナは指先を軽く切った。その時に生じた痛みにアンリ―ナは顔を歪ませた。

 そしてじくじくと痛む指先から流れる血をぽたりと魔法陣の上に落とした。

 その瞬間激しく魔法陣が光り出した。同時に審査員から聞こえる詠唱文。


Manifestez-vous au Seigneur auquel vous devez obéir.

(汝、従うべき主の元へ顕界せよ)

Ceci est une offrande pour vous

(これ成るは汝へ捧げる供物なり)

C'est la bénédiction et le miracle de Dieu!

(これ成るは神の祝福・奇跡なり!)


 召喚文が繰り出される度に魔法陣の輝きは増していく。その輝きは最終的に部屋中を覆い隠した。

 一面が光で包まれ光が収まった後、そこには一匹の白い獣がいた。


『コーン』

「これが、私の召喚獣……?」

「おい、数値はどうだ」

「あのぉ~000って出てんですけどぉ……」

「何? そんなはずはない! 魔力が無ければ召喚できんのだぞ!」

「で、ですが数値には000って出てるんですよぉ!!」


 ごてごてとした機械——魔法機を見ている審査員の一人が困惑した様子で発した言葉に、他の審査員はざわつき始めた。

 そんな事あるのか? 不具合でも起きたのだろう。魔力量がないのでは? 儀式は二度もやれない。そもそもこれは一体なんの種族はなんだ?! 審査員の反応にアンリ―ナは「反応見たいとは思ったけどこいつらじゃねェんだよなァ」ともやもやとした感覚を抱いた。


 ——まぁ、それはそれとして……コレはなんだ?


 視線を審査官から白い獣へと向けた。耳が長く、尻尾も長く、小柄な大きさの召喚獣。アンリ―ナは目の前の獣に心当たりがなく首を傾げた。

 ただ、近しいもので上げるならばそれは犬の見た目に近かった。


『コーン』


 獣はアンリ―ナの疑問に何かを応えるかのように一声鳴いた。

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