第二話
召喚儀式。
それはこの世で最も重要な規定である。
召喚したモンスターにより召喚者の魔力量が判明し、そこから禁止されていた魔法の使用が解禁される――――が。
同時に召喚者の未来が決まるという運命の分かれ道であった。
魔力量が多ければ多い程優遇され貴族の未来が確定するが、魔力量が少なければ少ない程奴隷のように扱われる。
それがこの世の理である。
勿論、反発する事は許可されている。だが魔力量は生まれた時から決まっているもので、下剋上が実現できることはほぼない。
——ホント、嫌なトコに転生させやがってあのクソ女神が。
アンリ―ナは入学前に送られた用紙を眺め目的地に向かいながら内心文句を連ねる。魔力量で人生全てが決まる、魔力量は召喚儀式をするまでは分からない。アンリ―ナも魔力量は分からないので、今後の未来に表では緊張・心配の様子を見せるが、内心は下剋上が出来るかもしれない楽しさに胸躍っていた。
ツマラナクない、飽きない、面白そう、楽しめそう……だがそれはそれとして、自分を転生させた女神に対しては怒りが湧く。こんな心底生きにくい世界に転生させるなんて! と自分自身の行動で招いた結末に悪癖をついた。
「わ、沢山人がいる……! あ、そうだ空いてる場所は……入学式始まっちゃう」
アンリ―ナは入学が行われる場所で、人の多さに目を瞬かせる。村では見なかった大勢の同年代の人々、アンリ―ナはそわそわと落ち着かず周囲を見渡す振りをした。
中を進み空いている椅子を探し目についたのは端側にある椅子。アンリ―ナは安堵の息を吸ってその椅子へと近づく。
——ラッキーィ! もしもの時の対処がしやすい場所で助かるゥ~~~。
内心喜びながらアンリ―ナは椅子に腰掛ける。ほぅ……と一息ついてちらりと隣の人物に目を向けた。
近づいている最中に気づいた周りの人々とは雰囲気が違う存在。整えられた見た目、横から見える顔つきは周囲の存在とは比較にならない程の美形。高貴な存在だと誰も彼もが思ってしまう程のオーラを漂わせる男子生徒。
——はぁ~イイコちゃんってか。気色悪~~~~関わりたくねェ。なんで俺ここにしたかねェ?
その輝かしい瞳が、その自信ありげな顔付が、アンリ―ナに前世を思い出す。困っている人は助ける善性の勇者。善人であり続けようとする人間。
アンリ―ナの捻くれた性格が早々に治る事はないので、勇者に面影を感じた善人面の男子生徒に嫌悪感を示した。
だがそれを表情に出す事はしない。そんな表情を出しては今まで作り上げたアンリ―ナという設定が全て台無しになってしまう。そんなものアンリ―ナは望んでいない。また悪になってしまっては心底ツマラナイ人生になってしまうのだから。
「……ん?」
——アッヤッベェ!!!!
「お――ンンッ、私を見ていたようだけれど、何か気になる事でも?」
「あっ、その、ご、ごめんなさい。つい、気になってしまって……」
——クソォ! そんなに見るつもりはなかったってのに!!!
勝手に面を重ね、責任転嫁をするアンリ―ナ、表ではわたわたと焦る様子を見せる。その行動を見て男子生徒は少し頬を赤らめた状態でアンリ―ナに優しく語りかけた。その表情は女性が見れば惚れてしまいそうになってしまう優しい顔だった。
「ああ、謝らないで。ただ凄く見つめてくるから何か気になる事でもあったのかな……って。それに、は、恥ずかしくてね……?」
「えぇと、その、貴方が高貴な方のように感じてしまいまして、つい……」
「……あぁ、そう、なんだ」
「でも、話してみると普通の方だと分かりましたので見て損はありませんでした。あっ、でも話しかけずにじっと見てしまってごめんなさい」
アンリ―ナはわたわたと本心のように言葉を連ねる。だが目は男子生徒の行動全て見落とさないようにじっくりと観察する。
弱みを握れば駒として使えるだろう。と捻くれた考えを持ちながら。
「ふ、普通だったかな?」
——素は俺。普通でありたい。恥ずかしがるような仕草を見せておいて目はこっちを見ていない。大方「この子も周りの奴らと同じなんだ」みたいな感じだろうなァ。ま、この見目じゃぁ大抵の女はお近づきになりたい……よなァ?
「ええ、今話してるのだって、とっても普通。むしろ話しやすくて、楽しくて……ふふっ、ごめんなさい。初対面で言うべき言葉ではありませんでしたわね」
内心で考察をして表では優しい表情で対等に接するような声色で話す。
そんなアンリ―ナの言葉を聞いた男子生徒は一瞬驚いたような表情をしてから、先程の優しい顔とは違い本心からの優しい、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「……私も君と話していてとても楽しい気持ちになってしまった。ありがとう。——ああ自己紹介がまだだったね、私はアルノエル・ラ・ディナルド、君さえよければノエル、と呼んでくれないかな?」
「分かったわノエル。私はアンリ―ナ・イルヴィア、貴方の好きに呼んでください」
「ん、それなら……リーア……とか……?」
「リーア、リーア! 可愛らしい響き!」
あだ名にアンリ―ナは大げさな反応を見せた。嬉しそうにアルノエルから発されたあだ名を肯定する。
アンリ―ナの嬉しそうな演技に気づかないアルノエルはアンリ―ナの喜びように、同じように嬉しそうにふにゃっと柔らかな表情をした。
「! そうか、そうだね」
——やった~~~~~~~~~!!!!!!!!!! 駒ゲットォ!!!!!
表で嬉しそうに笑いあうアンリ―ナとアルノエルをよそに内心では性格の悪い喜び方をする。
そんな性格の悪い考えでも心が温まるような感覚をアンリ―ナは内心で感じた。だがすぐに気のせいだと切り捨てた。
たかがこれだけで絆されるほど悪をやっていた訳ではない、と意地を見せた。だからこれは紛い物の感情だと決めつけた。
——対価のない優しさなんて世界で一番信用出来ねェ。
捻くれた性格は早々治る事はない。前世での思い出が蘇りアンリ―ナの気分は一瞬にして低下した。
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